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無料ブログはココログ

2022.02.14

本ブログは移転しました

長くココログを使ってまいりましたが、モバイル版の広告がかなりキツくなってきたので、2022年2月14日をもって、本ブログを以下に移転することにいたしました。今後は新しいブログをお読みください。

(新) 藤川大祐 授業づくりと教育研究のページ https://daisukef.hatenablog.com

2021.10.10

教委・学校の法令違反がある現実を前提に、いじめ防止対策推進法の改正を〜政策提言を行いました〜

2021年10月8日(金)、文部科学省にて、森田志歩さん(特定非営利活動法人Protect Children 〜えいえん乃えがお〜)をはじめとするさまざまな立場の方々とともに、いじめ防止対策推進法改正に向けた政策提言を行う発表の記者会見を行いました。

提言の内容は、以下に掲載されています。

https://ijime-platform.com/archives/2682

2013年にいじめ防止対策推進法が成立・施行されて以降、いじめ問題への対応は着実に進んできました。しかしながら、本ブログでも報告してきた千葉県流山市の例をはじめ、最近の福島県福島市、北海道旭川市、東京都町田市の例など、教育委員会や学校が法令に従った対応をとらず、被害者や家族を苦しめるケースが後をたちません。

私たちは、いじめ被害者やその保護者の方々にアンケートにご協力いただき、教育委員会や学校の対応が不適切な例が、回答の中でも数十件見られることを確認しました。不適切な対応がとられているのは、決して報道されている例だけではないことがうかがわれます。

教育委員会や学校がいじめ問題に対して法令に従った対応ができないあり方については、以下の論文でも検討したように、法令より組織内の「空気」に従おうとする組織風土があると考えられます。

藤川大祐(2020) 「多数決ゲーム」から「群像劇ゲーム」へ―ゲーミフィケーションを取り入れた学校教育論の試み―

いじめ防止対策推進法の改正については、数年前、国会議員の方々の間で検討され、案も出されていました。しかし、その後、改正の議論は停滞し、この2年ほどは(少なくとも表面的には)全く進んでいません。国会でいじめ問題に取り組む議員の中で中心的な存在である馳浩衆院議員は、次期総選挙に出馬しないことを明らかにしており、今後は中心になる議員が誰になるのかさえ、見通せない状況です。

私たちの政策提言の中では、いじめ防止対策推進法の改正案を具体的に示しています。教育委員会や学校が法令に従わないことがあるという前提で、主に以下の点を盛り込みました。

・国に、地方公共団体、学校等の状況の把握と検証を行う第三者機関を設置する内容を加える。(現状でも文部科学省にいじめ防止対策協議会が設置されていますが、この協議会は法に規定はなく、教育委員会や学校が法令違反を繰り返している状況に対して無力です。)

・教育委員会や学校の不適切な対応に関する相談窓口を国が設置し、上記の第三者機関への報告を義務付ける。(現状では、教育委員会が不適切な対応をしている場合に、実効性ある相談対応をできる窓口がありません。)

・国が、教育委員会に対して、是正の勧告・指示といった強い対応ができることを明示する。(現状では、教育委員会に法令違反の対応があっても、国が強い指導をすることができていません。)

・教職員がいじめを受けた児童等を徹底して守り抜く責務があること、重大事態への対処にあたっては学校やその設置者は被害者側の申し立てに真摯に対応しなければならないこと等を明記する。(当然のことなのですが、冷酷な対応がとられることが多いので、明記します。)

・児童等が苦痛を感じているときには必ずいじめの有無を確認し、いじめがないことが確認された場合を除いて24時間以内に学校は設置者に報告しなければならないこととする。(事実確認や報告が遅々として行われない場合が多いので、条件を明確化した上で報告期限を定めました。)

・いじめを行ったと考えられる児童等を、校長の判断で教室から退去させられることを明記した。(従前は学校設置者が出席停止を命じることが原則であり、実際に退去させることが困難であったため。)

・重大事態の調査にあたる第三者委員会の委員に適切な報酬を支払えるようにするため、国及び地方公共団体が財政措置をとらなければならないことを明記した。(従来は報酬が低すぎ、弁護士等の専門家の協力が得られにくい状況があるため。)

国会議員各位にも文部科学省や教育委員会等の関係者にも、この提言をお読みいただき、事態の改善に向けて実効性ある措置をとっていただきたいと思います。私たちとしても、今後、国会議員の方々等に説明をさせていただく機会を設けてまいりたいと考えています。

2021.06.16

藤川大祐『「いじめに対応できる学校」づくり 法令だけではわからない子どもを守る実務ノウハウ』(ぎょうせい)、6月20日発売

来る6月20日、私の新しい著書『「いじめに対応できる学校」づくり 法令だけではわからない子どもを守る実務ノウハウ』(ぎょうせい)が発売となります。3月に出した『教師が知らない「子どものスマホ・SNS」新常識』(教育開発研究所)に続き、今年2冊目の単著の発売です。2冊とも、出版社からお話をいただき、1〜2ヶ月の執筆期間を確保して書き上げました。スマホの問題もいじめの問題も、書きたいこと、書かなければならないことが多くあったので、私なりに力を入れて書かせていただきました。

今回の『「いじめに対応できる学校」づくり』は、学校のいじめ対応の実務のノウハウを徹底的に扱った本です。このブログでもずっと書いてきたように、私は千葉県流山市や茨城県取手市等で、教育委員会の附属機関の委員長等を務め、重大事態への対応等を経験してきました。そうした中で、学校はもとより教育委員会もが、法令やガイドラインを無視していじめ問題を扱っている状況を目の当たりにし、私なりになんとか状況を改善したいと尽力してきました。取手市教育委員会では成果が見られる一方で、流山市教育委員会の対応は本当にひどく、文部科学省で記者会見を行って問題提起をすることが必要となるほどでした。

報道を見れば、川口市教育委員会をはじめ、法令やガイドラインに従わない例が数多く見られます。これが法治国家なのかと、目を疑うことばかりです。こうした状況が被害者やご家族に、深刻な二次被害を与えています。なんとかしなければなりません。

他方、法令やガイドラインは込み入っており、実際の学校現場でのいじめ対応にあてはめたときにどうなるのかは、必ずしも明確ではありません。私自身、附属中学校長としていじめ等の問題への対応にずっと当たっていますが、法令やガイドラインについてよく確認することに加え、そうしたところに明記されていない組織のあり方、スピード感等について、必要なところをしっかりと補っていくことが必要だと痛感しています。

私は、教育研究者、学校長、第三者委員会委員長を同時期に並行して務めるという稀有な経験をさせていただいています。この立場だからこそ、学校がいじめに対応するための実務ノウハウをしっかり書かなければと考えました。

本書は、第一義的には、学校でいじめ対応にあたる校長などの管理職の方々や生徒指導主事等に向けて書いています。せめて、この本にある内容は、学校におけるいじめ対応の最低限の前提としてほしいと願っています。そして、教育委員会の方々、学校の多くの教職員、保護者、議員、弁護士、報道関係の方々、さらには当事者の児童生徒の方々等、多くの方にお読みいただき、この社会のいじめ問題への対応の水準を高めることにつなげられるようになれば幸いです。

日本中の学校を、「いじめに対応できる学校」にしていきましょう。

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2021.06.04

教育再生実行会議第十二次提言は教育に壊滅的な悪影響を与えかねない

首相の私的諮問機関である教育再生実行会議が6月3日、第十二次提言「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」を公表した。日本経済新聞の記事には、私のコメントも掲載されている。

 

日本経済新聞の記事では、まあまあやんわりと私の見解が述べられている。だが、私はこの提言は日本の教育に壊滅的な悪影響を与えかねない深刻な問題を含むものだと考えている。以下、私の考えを述べておきたい。

 

1)「データ駆動型」という語が、明確な定義なく用いられている。「データ駆動型」とは data driven の訳であり、データをもとに次のことを決めていく方法という意味合いであろう。だが、この提言の言う「データ駆動型」の教育への転換は、教育を壊滅的に破壊しかねない危険なものである。以下がその理由だ。

・「データ駆動型」という言葉には、データ以外のことに惑わされずにデータから導かれる決定を行うべきだというニュアンスがある。このことは、教員をはじめとする人間の知見を排除するというニュアンスを含む。学校現場を支えてきた教員の知見よりデータを優先するということであれば、教員は全く尊重されていないことになってしまう。教員に対するリスペクトを欠くと言われても仕方がない。

・提言では、扱われるデータが、デジタルで自動的に収集できるものとして想定されているように見える。しかし、教育に利用されるデータが、デジタルで自動的に収集できるものばかりでよいはずがない。少なくとも、教員や児童生徒や保護者からのインタビューや教室の授業実践の観察等の質的な研究によって得られるデータが捨象されてよいはずはない。よく引き合いに出される医療におけるデータ利用においても、医療チームのメンバーが相互に見解を出し合うカンファレンスが不要となるわけでない。提言は、質的データを無視して教育が改善できるかのように書かれている。提言が現場の人々の声、実践における具体的な事実といったものを捨て去ることになれば、現場での話し合いや実践的研究は否定されてしまう。日本の教育の特色である授業研究も廃れてしまうかもしれない。

定義もなく「データ駆動型」などという言葉が使われること自体が不適切である。せいぜい「データ活用」くらいにしておくべきであった。

 

2)初等中等教育の教員がひどい労働環境にあることで学校教育が危機に瀕しているにもかかわらず、この点について踏み込んだ策が盛り込まれておらず、危機的な状況を止められない。具体的には以下の通り。

・少人数学級の推進については、既定の方向をなぞるだけで、小学校35人学級の効果検証を待つ姿勢しかない。「データ駆動型」発想の弊害かもしれないが、効果検証など待たなくても、学級規模が縮小されれば教員の負担が減ることは明らかであるし、35人に減らしたところで人数が少なすぎることによる問題が生じるとも考えにくい。欧米に近づけるために上限をせめて30人程度にすべきなのは当然であるので、首相に対して欧米並みの少人数学級化を提言すべきであったはずだ。

・教員免許更新制についても、抽象的に「改革」が言われているだけで、廃止は打ち出されていない。そもそも、勤務外の時間に私費で更新講習を受けさせることは不合理であるし、教員が不足しているのに免許失効で教員になれない人や失職する人が出ている状況もある。廃止を提言すべきだったはずだ。

・諸悪の根源とも言える給特法については、何の言及もない。教育の仕事はやろうと思えばいくらでもやるべきことがあるので、残業し放題の給特法があれば真面目な教員ほど労働時間が長くなるのは当然である。時間外労働時間に対応した手当を支給するようにしなければ、与えられた時間内で業務を遂行するという方向にはシフトできない。

このままでは、教員のイメージがどんどん悪化して教員のなり手が決定的に不足する事態に陥るとともに、教員を辞める人も多く出てしまうことになるだろう。「#教師のバトン」の悲惨な状況を、教育再生実行会議委員はどう見ているのだろうか。

 

3)上記以外は、初等中等教育における「9月入学」の議論が中途半端になっていることをはじめ、既定の路線の確認が中心であり、「新たな学びの在り方」と言えるほどの革新的な内容は見られない。

 

以上のように、提言では、「データ駆動型」という危険な発想ばかりが前面に出る一方で、教員の労働環境に対しては無策である。この提言のまま教育政策が進めば、教員へのリスペクトがないまま危険な「データ駆動型」の取り組みばかりが取り入れられて教員の負担感と無力感ばかりが増し、日本の教育に壊滅的な悪影響が与えられてしまう。事態は深刻である。

2021.03.10

流山市いじめ対策調査会による調査報告書に関する見解

昨日3月9日、流山市教育委員会が報道機関に公表したいじめ重大事態に関する調査報告書2件を入手し、内容を確認しました。以下、私の見解です。

 

1.中学校案件の「最終報告書」について

1)この「最終報告書」では、私が会長として取りまとめた中間報告書の内容がベースとなっているものの、独自の調査がなされた形跡はなく、一方的に「当調査会の意見」が記される形式になっています。新たな調査がなされていないのであれば、中間報告書の内容が尊重されて然るべきであり、少なくとも実際の調査に基づいて中間報告書をまとめた私たちとの対話がなされるべきであったと考えられます。

2)内容は一言で言えば、学校の弁護をしているようにしか見えませんでした。学校が必要な対応をしていたかの評価に終始していて、深刻な被害が生じた背景の事実を網羅的に調べるということがなされていません。深刻な被害が生じた事情やどのようにすれば防げたのかの分析もなされておらず、学校が必要な対応を行っていたことだけを主張しているようにしか見えません。国のいじめ防止基本方針に違反しています。

3)おそらく被害者に対して調査の方針を説明したり、調査の結果を適切に説明したりといったことがなされていません。だとすれば、国の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に違反しています。

 

2.小学校案件の「報告書」について

調査方法等の記載がなく、どのように調査をしたのかが不明です。被害者に対して調査の方針を説明したり、調査の結果を適切に説明したりしていたのか、疑問です。

流山市のいじめ再発防止策公表に関して、報道機関に取材してほしいこと

昨日3月9日、流山市教育委員会が「いじめ重大事態の調査結果を受けた再発防止策」を公表しました。

▽いじめ重大事態の再発防止策の公表について(流山市ホームページ)
https://www.city.nagareyama.chiba.jp/1000008/1009881/1029980.html

また、千葉日報の記事( https://www.chibanippo.co.jp/news/national/771064 )によると、これに合わせて、昨年8月に流山市いじめ対策調査会が出した重大事態報告書が報道機関向けに公開されたようです。

公表された再発防止策には、教育委員会の体制強化、いじめを防止するための取組、いじめの早期発見と適切な対処のための取組、再発防止策の確実な実現のために、というように4項目にわたってさまざまな策が示されています。こうした取り組みが進められることは望ましいと思われますが、重大事態への対応についてどのように反省をし、どのように変えようとしているのかが全く読み取れません。

私はこれまで本ブログの中で、流山市教育委員会が深刻ないじめ事案と向き合わず法令等に違反した対応を続けてきた体質を問題にしてきました。この体質が変わることを期待してよいのかを考えるためにも、今回調査報告書が公表された案件について、以下の点が明らかになる必要があると考えます。報道機関各位におかれましては、流山市教育委員会の発表を一方的に流すのでなく、こうした点について取材をし、流山市教育委員会の対応を検証していただきたいと考えます。

 

1.被害者側への説明等について

1)いじめ防止対策推進法第28条第2項は、重大事態の調査がなされた場合に、被害者側に事実関係その他必要な情報を適切に提供することを定めています。また、文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」では、事前に説明した方針に沿って被害者側に調査結果を説明することが記されています。本件について、被害者側にどのような形で情報提供をしていたのでしょうか。それは適切であったのでしょうか。

2)上記ガイドラインでは、「被害児童生徒・保護者に寄り添いながら対応することを第一とし、信頼関係を構築すること」としています。本件について、被害者側との信頼関係構築のために、どのようなことがなされたのでしょうか。

3)上記ガイドラインでは、調査主体、調査事項・調査対象、調査方法、調査結果の提供等について、被害者側に説明すべきこととしています。本件について、新たな調査会が調査を行うにあたり、被害者側にいつどのようにこうした点が説明されたのでしょうか。

4)上記ガイドラインでは、調査結果の公表や公表の方法等については、被害者側の意向等を総合的に勘案して適切に判断することとされています。今回の公表についてはどのような要素をもとに報道機関に公表するという判断がなされたのでしょうか。

 

2.担当者等への懲戒処分の要否の検討について

1)上記ガイドラインでは、法律や基本方針等に照らして重大な過失等が指摘されている場合には、懲戒処分等の要否を検討すべきことが書かれています。重大事態としての対応を怠っていたという明らかに法律違反の対応があったのですが、担当者等の懲戒処分の要否は検討されたのでしょうか。検討されていないとすれば、重大事態としての対応を怠っていたことは「重大な過失等」に当たらないと判断されたということになりますが、なぜ重大事態としての対応を怠っていたことが「重大な過失等」にならないと判断されたのでしょうか。

 

2020.09.14

日本教育工学会2020年秋季全国大会(オンライン開催)発表資料

 9月12日(土)〜13日(日)にオンラインで開催された日本教育工学会2020年秋季全国大会において、ポスター発表とシンポジウム2「オンライン教育本格化時代の情報モラル教育」 での発表をさせていただきました。資料を掲載いたします。

 

■ポスター発表 「『オタク力』に着目した授業デザインの可能性」

 抄録

 ポスター

 

■シンポジウム 「保護型情報モラル教育から社会参加型情報モラル教育へ」

 抄録

 スライド

【追記】 シンポジウムの発表の様子がYouTubeで公開されています。

2020.09.08

「ダブルバインド型いじめ」としての「ステメいじめ」や「いじり」(メモ)

最近のネットいじめについて。具体的に誰かの悪口を言うのでなく、誰のことだかわからない形で「むかつく」「調子に乗るな」などと書くものが多く報告されている。典型的には、LINEのステータスメッセージ(ステメ)にこうした言葉が書かれる。

文脈を共有している者たちから見ると、これが誰について書かれたものかが明らかに思える。当然、対象となっていると思われる者がこうした悪口を知れば、苦痛を覚える。一定の関係がある者の行為によって被対象者が苦痛を覚えれば、その行為は法律上、「いじめ」に該当する。

だが、こうしたステメいじめでは、書いた者はたいてい言い逃れようとする。別に学校の誰かのことを書いたのではない、漫画、ドラマ、ゲーム、ネット等の何かにむかついたからその気分を書いたのだと言うのである。すると、ステメいじめの被害を訴えても、訴えた者は救われない。それどころか、「おまえのことを言っているんじゃないので何言ってるの? 自意識過剰じゃない?」などと言われ、さらに苦痛を与えられることとなりかねない。

では、対象となっていると思われる者は、訴えずにいえればよいのか。訴えなければ、いじめは解消せず、苦痛が続くことになる。継続的に同じようなことが書き続けられれば、堪えられなくなるかもしれない。

このようなステメいじめの構造は、「いじり」によるいじめの構造と似ている。「いじり」では、悪口等が言われているとしても、それは真剣なものでなく、「お笑い」の一環とされる。だから、「いじり」による苦痛が嫌だと真剣に訴えても、「どうしてそんなに真剣になってるの?」と嘲笑されかねない。そうなればさらに苦痛を与えられることとなる。もちろん、何もしなければ、ずっと「いじり」を受け続け、苦痛を与えられ続けることになりかねない。

これらに見られるのは、「ダブルバインド」の構造である。ダブルバインドとは、ベイトソンによって提起された概念であり、二つの相矛盾する要求が突きつけられ、どちらの要求に従っても制裁を受ける状況を言う。わかりやすい例としては、親が子どもに「おいで」と言いながら表情や身体が子どもを拒否している状況だ。子どもとしては、親の方に行っても行かなくても、制裁を受ける。これは一種のジレンマである。相対的に権力をもつ者が単独で作り出すジレンマ構造が、ダブルバインドだと言えばよいだろうか。

誰のことかを明示しない形で悪口を言うというのは、風刺にも見られる。ただし、風刺は想定的に権力をもたない者がもつ者に対して行うことが基本だったはずだ。権力がない者が権力をもつ者に対して、あからさまに反抗するのでなく、誰のことかを明示しない形で批判する。権力の側も、明示的に批判されたわけではないので、基本的には目くじらを立てず放置しておく。こうした形で風刺は成立する。

だが、ダブルバインドは基本的に、権力をもつ側がもたない側を拘束するものである。ダブルバインドを作り出すことで、権力をもつ側は、直接批判されることを回避しながら、権力をもたない側に深刻なストレスを与えるのである。

では、ステメいじめのようなダブルバインド型いじめにどのように対応したらよいだろうか。悪口を書いた者の意図を確認して対応するのでは、もうダブルバインドを作り出す側の術中にはまっていることとなる。悪口を書いた側の意図は確認できなくても、誰のことかが明示されない形で誰かの悪口を書くこと自体が問題だという論理を使う必要がある。言い換えれば、ダブルバインド状況を作り出すこと自体が、卑劣で許されないのだという論理を使うしかない。

このようなことを考えさせる教材が求められている。

2020.06.04

「今ではない」9月入学を導入するとしたらどうなるのか

新型コロナウイルスの影響による休校措置を受けての9月入学という話は、すぐに導入はされないということで、落ち着きつつあります。このまま夏休みの大幅短縮等で対応することには疑念を抱かざるをえませんが、9月入学への移行には国民的合意が不可欠ですから、合意形成ができていない現段階での導入見送りは妥当なことと考えます。

しかし、9月入学への移行は「今ではない」がいずれ導入すべきだという議論が出ていることについては、もう少し議論がなされるべきだと考えられます。というのは、具体的に考えると、9月入学への平時の移行は非常に困難だからです。

年度の4月開始を9月開始に移行するには、移行期間中に、学年の進行を5ヶ月遅らせるか7ヶ月前倒しするかのいずれかが必要です。それぞれについて、見ていきましょう。

1) 5ヶ月遅らせる場合

今後、平時に戻った上で5ヶ月遅らせるのであれば、移行期間中に特に必然性なく5ヶ月の「留年」を強いるか、5ヶ月分の空白期間を設ける必要があります。大学だけのことであれば、かつて東大が検討したように、高校卒業後に5ヶ月間の「ギャップターム」を挟んで大学入学ということでよいでしょうが、小中高でも実施するとなるとどこかで子どもたちに学年の進まない5ヶ月を過ごさせることとなります。しかも、小学校入学時期を遅らせるか一時的に多くの者を入学させるかいずれかが必要となるのは、これまでの来年度からの九月入学導入に関する検討の中で出ている通りです。今後あらためて9月入学を導入する場合、5ヶ月遅らせる理由はないように思われます。

2) 7ヶ月前倒しする場合

7ヶ月前倒しする場合には、学年の区切りはこれまで通り4月1日現在の年齢とするのか、9月1日現在の年齢に変えるのかによって、やり方が違ってきます。これを機に義務教育開始時期を早めようという話もあり、現在と年齢の区切りを変えないと考えると、年齢の区切りは4月1日のままとして検討したいと思います。また、ここでは小中高だけでも十分に複雑なので、小中高の段階のみ検討します(未就学児や大学の話題を含めても、さらに複雑になることはあっても、単純になることはありません)。

具体的な移行の方法には次のようなものが考えられます。

A) 全学年を一気に移行する

ある年度を、4月から8月までの5ヶ月で終わらせることとし、9月から新しい年度を始める方法です。こうすれば、一気に9月入学に移行でき、移行後は5歳5ヶ月〜6歳4ヶ月の時期に小学校に入学となります。義務教育が終わるのは、14歳5ヶ月〜15歳4ヶ月の時期となります。学校に在籍する児童等が一時的に激増するようなこともありません。しかし、最大の問題は5ヶ月で1学年分を終えてしまうことです。夏休みや土曜日をすべて授業に宛てたとしても全く授業時間が足りません。

B) 数年かけて年度の開始時期を移行する

一気に7ヶ月早めるとA)のように5ヶ月で1年分を終わらせる必要が出てくるので、少しずつ年度の開始時期を早めることとします。たとえば、1ヶ月ずつ7年にわたって早めるのであれば、それぞれの年度の時期は以下のようになります。

1年目 4月〜2月
2年目 3月〜1月
3年目 2月〜12月
4年目 1月〜11月
5年目 12月〜10月
6年目 11月〜9月
7年目 10月〜8月

1ヶ月分詰めるのであれば、夏休みの短縮や土曜授業設定等で実現可能と思われます。また、在籍する児童等が一時的に激増することもありません。しかし、毎年日程を組み直さなければならないので、かなりわかりにくく感じられ、賛同する人は少ないのではないでしょうか。

C) 学年進行で移行する

移行開始時期で小学校等に在籍している児童等については高校卒業まで4月開始のままとし、その次の代から9月入学にします。具体的には次のようになります。

1年目 4月〜8月は小1〜高3が通常通り在籍、9月から新小1が入学。9月以降、小学校は1学年多い。
2年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)小1〜高2は進級・進学。9月に(新)小1は進級、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、小学校は1学年多い。
3年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)小2〜高2は進級・進学。9月に(新)小1・2は進級、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、小学校は1学年多い。
4年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)小3〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜3は進級、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、小学校は1学年多い。
5年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)小4〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜4は進級、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、小学校は1学年多い。
6年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)小5〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜5は進級、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、小学校は1学年多い。
7年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)小6〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜6は進級・進学、新小1が入学。1〜3月、小学校は1学年多い。9〜12月、中学校は1学年多い。
8年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)中1〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜中1は進級・進学、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、中学校は1学年多い。
9年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)中2〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜中2は進級・進学、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、中学校は1学年多い。
10年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)中3〜高2は進級・進学。9月に(新)小1〜中3は進級・進学、新小1が入学。1〜3月、中学校は1学年多い。9〜12月、高校は1学年多い。
11年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)高1・2は進級。9月に(新)小1〜高1は進級・進学、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、高校は1学年多い。
12年目 3月に高3は卒業、4月に(旧)高2は進級。9月に(新)小1〜高2は進級・進学、新小1が入学。1〜3月と9〜12月、高校は1学年多い。
13年目 3月に(旧)高3は卒業、8月に(新)高3は卒業。移行が完了し、9月に(新)小1〜高2は進級・進学、新小1が入学。1〜3月、高校は1学年多い。

移行に膨大な時間がかかる上に、学校に在籍する児童等が1学年分増えることが繰り返し生じます。しかし、この形であればどの代の子どもも、短期間で年度を終わらせる必要がありません。教室や教員の確保に大きな課題はあるものの、子どもに無理をさせないためにはこの案がベストと思われます。


以上、今後平時に9月入学に移行する場合に、具体的にどのような方法がありうるのかを検討しました。9月入学自体に大きなメリットがあるとしても、移行は非常に大変です。9月入学は「今ではない」という議論においては、平時にどのように移行するかという問題もあわせて検討されるべきです。移行の大変さを共有しないで今後9月入学が導入されるような事態になってしまうと、「こんなはずじゃなかった」という不満が多くの方に強く残ってしまうのではないかと危惧しています。

2020.05.26

9月入学制具体案の修正について

9月入学制について具体案を発信したところ、未就学児への影響について多くのご心配のご意見をいただきました。これを受け、具体案を次のように修正したいと思います。

  1. 2020年度末を21年8月とする。21年度より、学校の年度を9月から翌年8月までとする。
  2. 20年度については、すでに休校措置で学習が進んでいない部分があること、今後も分散登校や再度の休校措置が必要となる可能性があり、学習進度を高めるのに限界があることを踏まえ、夏休みの過度な短縮などをせず、21年6月くらいまでかけて教育課程を進める。ただし、高校3年生や大学4年生などについて、教育課程の進行に無理がない場合には、3月に卒業することを認め、4月からの就職が最大限可能であるようにする。
  3. 小学校入学時期は当面、4月1日時点で6歳の者とする。21年生まれの者が6歳となる27年度より、小学校入学時期を1ヶ月ずつ遅らせ、31年度より9月1日時点で6歳の者とする。
  4. 入試、公務員試験など、児童生徒学生に関わる試験のスケジュールは、20年度実施のものについては可能な範囲で、21年度以降実施のものについては原則として全て実施時期を現状より4~6カ月程度遅らせる。
  5. 教職員の任期、定年などは基本的に5カ月遅らせる。定年については、今後の公務員の定年延長などがなされる中で、適宜調整する。
  6. 20年度は1年5カ月となるが、授業料などは1年分のままとする。学校が負担すべき5カ月分の人件費などについては政府が必要な補助を行う。
  7. 未就学児が増えることによる保育ニーズの増大に関して、幼稚園・保育園などへの助成拡大、家庭で乳幼児を養育する保護者への支援措置の対応を行う。
  8. この他、社会を挙げて9月入学制に合わせた制度の変更を行う。

補足です。

この案では、移行のための費用が膨大にかかります。当然、法律改正をや学校の教育課程の変更等、さまざまな手間もかかります。特に、未就学児が増えることへの対応は深刻であり、待機児童の増加については保護者への休業補償等の策を検討する必要があると考えます。こうしたコストについて社会的合意が得られなければ、上記具体案の採用はありえません。

また、移行措置が終わるまでの間、日本では義務教育開始時期が遅くなり、長期にわたって義務教育等の修了時期が遅くなります。こうした状況はいずれ解消されますが、一時的にせよこうした教育時期の遅れが許容されないということであれば、上記具体案は採用できません。

そして、当然ですが、季節感は変わります。この点は9月入学制である以上、避けることができません。ただ、季節感は上記具体案を採用するか否かについて決定的な要因とはならないと考えています。

前のエントリーにも書きました、小中高などの1年間の動きは次のようになります。なお、3学期制でなく前期・後期の2期制を前提としています。

8月 基本的に夏休み。新採用の教員には研修期間を設け、異動の教員には早めに内示を出す等して、新年度の準備に時間がとれるようにする。
9月 新年度開始。夏休み明けであるが、子どもたちは学年が変わって気分を新たにこの時期を迎えられるため、不登校や自殺等のリスクは低減される。
10月〜11月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事をこの時期と4〜5月とを中心に実施。ゴールデンウィークで時期が分断されることがない一方、適度に祝日があり、無理なく学校生活を送りやすい。部活動の秋季大会(従来の夏季大会に相当)も土日祝日等を活用して実施し、中高の3年生の部活動はこの時期を区切りとする。部活動の全国大会は11月から12月の土日や祝日を活用して実施することを原則とする。
12月 地域によるが、20日頃から冬休みに入る。
1月 地域によるが、成人の日くらいまでを冬休みとし、長めの冬休みに地域行事、社会教育活動等等を入れやすくする。
2月 2月末をもって前期修了。特に前期と後期との間の休みは設けない(数日確保してもよいかもしれない)。
3月 3月1日より後期開始。推薦入試等の入試がこの頃から始まる。
4月〜5月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事を実施。また、ゴールデンウィークを中心に部活動の春季大会従来の秋季・冬季の大会に相当)を実施。
6月 入試を主にこの時期に実施。
7月 中旬で授業終了、その後は夏休み。

このようにすると、現状の4月入学制に見られた問題は、以下のようにほとんど解消されることとなります。

・入試の時期は6月となり、梅雨ではあるものの、台風は少ない時期で、インフルエンザや雪害等の影響はない。
・夏休みが年度の区切りとなるため、夏休み前にいじめ等の問題を抱えていた子どもが不安を抱えたまま過ごす必要がなく、新たな気持ちで9月を迎えやすい。(冬休みを長くするプランにしているが、それでも3週間程度であり、現在の夏休みの半分である。)
・部活動のメインの大会を秋季と春季の気候がよい時期に設定できる。野球の甲子園大会もメインは11月から12月の週末にすれば、酷暑の中、高校生が連日試合をするような無理をすることが避けやすくなるだろう。
・教職員が余裕をもって新年度の準備をできるようになる。

暑い時期に入試をすることへの懸念がありえますが、イメージとしては現在の入試から4ヶ月遅れにスライドすると考えてください。すなわち、5月中旬に大学共通テスト、6月に今2月に行われているさまざまな試験というイメージです。5月は天候がよいですし、6月は梅雨ですがこれまで大雨はあまり多くありません。また、いずれにしても入試には予備日程が必要ですが、入試と新年度の間に夏休みをはさんでいるため、別日程で調整する余裕がこれまでより1ヶ月分多くあります。また、仮に今後さらに温暖化が進んだ場合には、入試時期を5月中心にすることで対応が可能です。いずれにしても、感染症や雪害のリスクの高い現行の冬の時期の入試よりは状況は大きく改善されると考えられます。

私は多くのコストをかけてでも、これを機に9月入学制に移行し、学校教育でこれまで当然とされていたことを見直す契機ともするのがよいと考えます。コストについては、これまであまりにも教育にコストをかけてこなかったのですから、許容されてよいと考えています。しかし、社会的に合意ができるかと言われれば別です。合意が得られないのであれば、無理に教育課程を詰め込んでなんとかこの危機を乗り越えなければなりませんし、今後当面、入学時期の移行のような大胆な改革は難しくなることを引き受けなければならないでしょう。

あまり時間をかけるわけにはいきませんが、しっかりと議論ができればと思っています。

2020.05.23

9月入学制の論じ方について

9月入学制について、5月22日の教育新聞「オピニオン」欄「9月入学、デメリットは少ないのではないか」で、具体的な提案を書かせていただきました。この中で、以下の私案を示させていただいています。

  1. 2020年度末を21年8月とする。21年度より、学校の年度を9月から翌年8月までとする。
  2. 20年度については、すでに休校措置で学習が進んでいない部分があること、今後も分散登校や再度の休校措置が必要となる可能性があり、学習進度を高めるのに限界があることを踏まえ、夏休みの過度な短縮などをせず、21年6月くらいまでかけて教育課程を進める。ただし、高校3年生や大学4年生などについて、教育課程の進行に無理がない場合には、3月に卒業することを認め、4月からの就職が最大限可能であるようにする。
  3. 小学校入学時期は、21年度は4月1日時点で6歳の者、22年度は5月1日時点で6歳の者というように年齢基準時期を1カ月ずつ遅らせ、2026年度より9月1日時点で6歳の者とする。
  4. 入試、公務員試験など、児童生徒学生に関わる試験のスケジュールは、20年度実施のものについては可能な範囲で、21年度以降実施のものについては原則として全て実施時期を現状より4~6カ月程度遅らせる。
  5. 教職員の任期、定年などは基本的に5カ月遅らせる。定年については、今後の公務員の定年延長などがなされる中で、適宜調整する。
  6. 20年度は1年5カ月となるが、授業料などは1年分のままとする。学校が負担すべき5カ月分の人件費などについては政府が必要な補助を行う。
  7. 未就学児が増えることによる保育ニーズの増大に関して、幼稚園・保育園などへの助成拡大、家庭で乳幼児を養育する保護者への支援措置の対応を行う。
  8. この他、社会を挙げて9月入学制に合わせた制度の変更を行う。

私としては、このくらいの具体案をもとに、期間を決めて、9月入学制導入か否かの議論を行い、早めに結論を出すべきだと考えます。

なお、上記の案では、未就学児にしわ寄せが来てしまうのではないかと考えられます。私としては、少なくとも今の学年は今の学年のまま来年8月まで過ごし、今の年長の学年にあたる子どもたちだけが来年度小学校に入学するという上記の方法は比較的問題が少ないのではないかと考えました。その上で、来年9月以降は、小学校入学時期に合わせて幼稚園等の学年を再編成することとし、今から子どもたちが学年の枠を越えて交流する等の配慮をしておくことで対応可能だろうと考えています。しかし、この方法では今の年少や年中の子どもに混乱が生じるというご意見もあるかと思います。そういうことであれば、2023年度までは4月1日時点で6歳の者が小学校に入学することとし、その後に年齢基準時期を1ヶ月ずつずらす措置をとるということにしてもよいと考えます。その場合、上記の案より移行が終わるのに2年多くかかりますが、現時点での年少児以上の学年には学年分断等の影響は生じないこととなります。

また、大学卒業の時期については大学で基本的に自由に決められますので、現在の在学生については、4年生に限らず、在学期間が4年となる年度の3月で卒業することを認めてよいと考えます。

「9月入学の議論は今ではない」という意見もあるようですが、現状で休校措置や分散登校等の影響で学校生活に大きな支障が生じているこの状況にどう対応するかという面が大きいので、今きちんと議論がなされるべきです。特に、今年度中に実施される入試の時期をどうするかに関わるので、むしろ早急に議論する必要があるはずです。

9月入学制については留学に関するメリットが多く指摘されていますが、私は現状の4月入学制にはいろいろと課題があると考えています。主なものとして以下があります。

・入試の時期が冬で、インフルエンザや雪害の影響が大きい。
・夏休みが年度途中なので、夏休み前にいじめ等の問題を抱えていた子どもたちは、夏休み明けに不安を抱えやすい。
・以前より夏がかなり暑くなっている中で、部活動のメインの大会が夏になっており、健康管理が難しい、
・教職員側が新年度の準備をする時間が短い。特に、新採用の教員は数日の準備のみでいきなり教員として教壇に立つこととなり、無理がある。

9月入学制にすると、上記のような問題が解消されます。小中高などの1年間の動きは次のようになります。なお、3学期制でなく前期・後期の2期制を前提としています。

8月 基本的に夏休み。新採用の教員には研修期間を設け、異動の教員には早めに内示を出す等して、新年度の準備に時間がとれるようにする。
9月 新年度開始。夏休み明けであるが、子どもたちは学年が変わって気分を新たにこの時期を迎えられるため、不登校や自殺等のリスクは低減される。
10月〜11月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事をこの時期と4〜5月とを中心に実施。ゴールデンウィークで時期が分断されることがない一方、適度に祝日があり、無理なく学校生活を送りやすい。部活動の秋季大会(従来の夏季大会に相当)も土日祝日等を活用して実施し、中高の3年生の部活動はこの時期を区切りとする。部活動の全国大会は11月から12月の土日や祝日を活用して実施することを原則とする。
12月 地域によるが、20日頃から冬休みに入る。
1月 地域によるが、成人の日くらいまでを冬休みとし、長めの冬休みに地域行事、社会教育活動等等を入れやすくする。
2月 2月末をもって前期修了。特に前期と後期との間の休みは設けない(数日確保してもよいかもしれない)。
3月 3月1日より後期開始。推薦入試等の入試がこの頃から始まる。
4月〜5月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事を実施。また、ゴールデンウィークを中心に部活動の春季大会従来の秋季・冬季の大会に相当)を実施。
6月 入試を主にこの時期に実施。
7月 中旬で授業終了、その後は夏休み。

このようにすると、現状の4月入学制に見られた問題は、以下のようにほとんど解消されることとなります。

・入試の時期は6月となり、梅雨ではあるものの、台風は少ない時期で、インフルエンザや雪害等の影響はない。
・夏休みが年度の区切りとなるため、夏休み前にいじめ等の問題を抱えていた子どもが不安を抱えたまま過ごす必要がなく、新たな気持ちで9月を迎えやすい。(冬休みを長くするプランにしているが、それでも3週間程度であり、現在の夏休みの半分である。)
・部活動のメインの大会を秋季と春季の気候がよい時期に設定できる。野球の甲子園大会もメインは11月から12月の週末にすれば、酷暑の中、高校生が連日試合をするような無理をすることが避けやすくなるだろう。
・教職員が余裕をもって新年度の準備をできるようになる。

季節感が大きく変わり、生活科などが困るだろうという論点はあります。ただ、温暖化で季節感がかなり変わってきていることもありますので、これを機に季節感の捉え方を変えるとともに、小学校1年生から2年生にかけて連続的に学習を進める等の工夫が可能と思われます。

なお、大学に関しては現状でも9月入学を取り入れているところがあり、基本的に前期と後期を逆転させ、時期を微修正することで対応可能であろうと考えられます。具体的には、9月から12月が前期、成人式に配慮して少し長く冬休みをとり、1月中旬から5月末までを後期、6月から8月は集中講義や留学等の期間とすることが可能です。もちろん、2〜3ヶ月ごとに区切って授業を行うことも可能でしょう。

以上のように具体的なイメージを描いた上で、以下の二つの選択肢のどちらがよいかを論じるべきです。

A) 2020年度を2021年8月まで延長し、2021年度から9月入学制を導入する。
B) このまま4月入学制を維持する。

ただし、Bは単なる現状維持ではありません。すでに休校措置や分散登校で、小中高などの教育課程には大きな遅れが生じています。秋以降に新型コロナウイルスの第二波が生じて、ふたたび休校措置が必要となる可能性も残っています。こうした状況の中で、今年度の教育活動をどのように成立させるかもあわせて検討しなければなりません。現状では夏休みの大幅な縮減や来年度以降への教育内容持ち越しが提案されていますが、こうしたやり方で第二波に対応ができるかどうか不明ですし、夏休みが短くなることによる子どもたちの健康面への影響も心配です。Aであれば5ヶ月の余裕ができるのですから、こうした問題はありません。

Aのデメリットは、手間と費用だけです。もちろん手間や費用は膨大でしょう。この手間や費用をBによる今年度のかなり無理のある学校生活とのどちらをとるかという選択になるのだろうと思います。

私は、ここまで述べてきたような具体的なイメージを描きつつ、AがBよりずっとよいと考えますが、みなさんはいかがでしょうか。

2020.05.13

休校措置、オンライン学習、9月入学等に関する関係記事一覧

3月以降、新型コロナウイルスの影響による休校措置、オンライン学習、9月入学等の話題で非常に多くの取材を受けています。私が校長をつとめる千葉大学教育学部附属中学校では、できることからやる、教員がボトムアップでアイデアを出して実行するといった考え方で、毎平日朝9時に生徒が校内用ホームページを見ることを基本に、文書ベース+一部オンライン同時双方向型の学習指導を行っています。家庭の状況については全保護者にアンケートをとり、全生徒の状況を継続的に確認しながら、ネットでの対応が難しい家庭・生徒には個別に連絡をとることにしています。

新型コロナウイルスの影響による休校措置において最も重要なことは、子どもたちが安全に健康に生活できるようにすること。その中で、学習指導の充実の前に、学校・学級とのつながりを維持し、家庭以外に帰属できる場所を確保することが重要と考えています。ですから、学校と子どもたちがコンタクトする頻度がある程度必要であり、毎日1回つながるというくらいがよいのではないかと考えています。もちろん、学習を適切に進めることも子どもの精神衛生上よいと考えられますので、休校期間中に予定されていた期間の授業内容の半分程度を目標に家庭で学習を進め、学校再開後に一部の内容を短縮して実施できるようにすることが必要です。

9月入学制度については、グローバル対応において大きなメリットがありますので、今年度学校再開後に無理に授業を詰め込んで児童生徒や教師に多大なる負担をかけずにするという観点からも、今年度は5ヶ月延長して来年8月までとし、来年度から9月を新年度の始まりとする案が検討されることを期待しています。もちろん社会全体の合意が必要ですし、関連する法令・規則の改正、私立学校等の財務負担、一時的に小学校入学が先進国で最も遅い7歳5ヶ月となる等の問題はあります。とはいえ、今年度を5ヶ月延長することとして制度改正等は今年度の終わりまで時間をかけて実施することとし、まずは早めに入試や就職活動、関連する諸試験等についてスケジュールを延期する措置を決めることが必要と考えます。小学校入学時期は、来年度は4月1日時点の年齢とし、その後毎年1ヶ月ずつ基準となる日を後ろにずらし、5年かけて9月1日時点の年齢にすれば6歳での入学に戻すことが可能です。

もちろん9月入学についてはいろいろな意見があると思いますが、テクニカルに解決できる点については早期に対応策をまとめた上で、このまま今年度を無理に3月に終わらせるのがよいかこれを機に9月入学に舵を切るかという大きな論点について国民的な議論を行うべきでしょう。テクニカルな問題についての慎重論と、細かい点は気にしない推進論との対立では、議論がすれ違ってしまいます。

以下、私個人や千葉大学教育学部附属中学校が関係する、休校、オンライン学習、9月入学等に関する記事の一覧です。有料記事もありますが、参考にしていただければ幸いです。【記事は適宜追記しています】

9月入学、負担7兆円 教育学会「利点少ない」(北海道新聞、5月22日)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/423431

新型コロナ 遠隔授業、充実望む声 オンライン端末、整備に格差 保護者「学習の遅れ心配」(教育新聞、5月22日、購読会員限定記事)
https://www.kyobun.co.jp/commentary/c20200522/

新型コロナ 今後の教育のあり方は オンラインで多様化 藤川大祐・千葉大教授に聞く /愛知(毎日新聞、5月20日)
https://mainichi.jp/articles/20200520/ddl/k23/040/028000c

再開後の学校どう変わる? 「オンラインで広がる可能性 議論や不登校生参加も」 (毎日新聞、5月20日)
https://mainichi.jp/articles/20200520/k00/00m/040/038000c

オンライン学習定着へ課題も 環境整備、自治体・学校間格差…保護者から不安の声(毎日新聞、5月17日、有料会員限定記事)
https://mainichi.jp/articles/20200517/k00/00m/040/117000c

学校生活にも“新しい生活様式” 「子供の健康と安全を最優先に」千葉大・藤川教授(テレビ静岡、5月16日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200518-00000008-sut-l22

学校再開はいつ? 再開後は「意識を変えていくことが重要」 静岡県内(テレビ静岡、5月15日)
https://www.fnn.jp/articles/-/42620

休業要請解除でも続く休校 文科省「経済と差、違和感」 教育委「子供は選べない」(毎日新聞、5月12日)
https://mainichi.jp/articles/20200512/k00/00m/040/228000c

社説 長引くコロナ休校 安心と希望与える対策を(宮崎日日新聞、5月12日)
https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_44919.html

(コロナと学び)「9月入学」の是非、識者に聞く 前川喜平さん、藤川大祐さん(朝日新聞、5月10日、有料記事)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14470636.html

9月入学検討も 長引く休校 “学習の遅れ”どうする?(NHK、5月9日)
https://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2020/05/0509.html

学習格差、広がる恐れ 特定警戒地域 休校継続多く(産経新聞、5月7日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200507-00000595-san-soci

【コロナ危機 6つの質問】藤川大祐千葉大学教授(教育新聞、5月7日、購読会員限定記事)
https://www.kyobun.co.jp/close-up/cu20200507/

文科省、学校再開に向けた指針公表 「9月入学」は課題精査(産経新聞、5月1日)
https://www.sankei.com/life/news/200501/lif2005010104-n1.html

家庭学習 意欲高める工夫…難易度合う教材、ネットでの参加も(読売新聞、4月30日、読者会員限定)
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/20200429-OYT8T50076/

9月入学、現職校長の識者に聞く「現実的」な導入論 教員たちが今「つらい」のは…(J-CASTニュース、4月30日)
https://www.j-cast.com/2020/04/30385282.html?p=all

9月始業や入学「選択肢」 文科相発言、課題も多く(日本経済新聞、4月29日、有料会員限定記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58595630Y0A420C2CR8000/

学校を失った子どもたち “教育の危機”に世界はどう対応?(NHK、4月28日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200428/k10012407261000.html

学校とコロナ禍 風土や指導見直す契機に(日本経済新聞、4月26日、有料会員限定記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58468320U0A420C2CK8000/

HPでつながり、学ぶ好機ととらえ 藤川大祐・千葉大教授(共同通信、4月25日、リンクは神奈川新聞有料会員限定記事)
https://www.kanaloco.jp/article/entry-339743.html

「まずやってみる」はできないのか 閉じ込められる子ども、オンライン授業求める親たち(毎日新聞、4月17日、会員限定有料記事)
https://mainichi.jp/articles/20200417/k00/00m/040/121000c

【臨時休校 千葉大付属中の取り組み】(下)逆境を新たな学びの機会に(産経新聞、4月16日)
https://www.sankei.com/life/news/200416/lif2004160006-n1.html

【臨時休校 千葉大付属中の取り組み】(上)学習と生活、リズムづくり(産経新聞、4月15日)
https://www.sankei.com/life/news/200415/lif2004150011-n1.html

休校延長に保護者困惑、再開後も課題山積 (日本経済新聞、4月4日、有料会員限定記事)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57682870U0A400C2EA2000/

学校再開 長期休校も視野に入れた対応策を(教育新聞、4月3日、購読会員限定記事)
https://www.kyobun.co.jp/commentary/c20200403/

新学期休校「新高3生、受験に響く」 都立高、4月は授業多い1カ月(産経新聞、4月1日)
https://www.sankei.com/life/news/200401/lif2004010111-n1.html

学校活動、コロナ休校で見えてきた「本当に必要なもの」(3月26日、朝日新聞、有料会員限定記事)
https://digital.asahi.com/articles/ASN3S7K1LN3RUTIL057.html

2020.01.27

千葉大学教育学部授業実践開発研究室(藤川研究室)卒論等発表会を開催します

私たちの研究室の卒論等発表会が、2月2日(日)に開催となります。卒論だけでなく、修論や委託研究生等の発表もあります。皆様のご参加をお待ちしています。

藤川研究室 卒論発表会 2020年2月2日(千葉県) - こくちーずプロ https://www.kokuchpro.com/event/f673454c46b4cca4afdb84faade1a869/?fbclid=IwAR1-MID_lbbytjeJGaAQkpzmSBUyzsMQIQ3q-C4l9MWmVxTxJYpv8kdARyA 

2020.01.21

ある教育委員会による一方的なスライド削除の通告について

ある教育委員会より、いじめ問題に関する講演の依頼をいただき、資料を事前送付して印刷をお願いしました。その教育委員会とはこれまで継続的にお付き合いがあり、いじめ問題に関してもよい取り組みをしていただけていると感じていました。

しかしながら、資料受領のメールに信じられない記載がありました。「法令を守らない教育委員会」というタイトルのスライドについて、「印刷資料からは除いて配付させていただきたいと存じます」と書かれていたのです。

該当のスライドは以下です。

Kyoi

これらはすべて、新聞等で報道されている案件であり、いじめに関する講演でこうしたことがらに触れることが必要だと私は判断しました。しかし、一方的に、この資料を印刷資料から抜くという連絡があったわけです。

百歩譲って相談をいただくということなら、ありうるかもしれません。しかし、一方的に連絡が来たことが、私には信じられませんでした。

あらためて思うのは、こうした教育委員会の一方的に「臭い物に蓋をする」ようなあり方が、いじめ被害に苦しんでいる人がいても、法令に反してまで、問題がなかったかのようにすることとつながっているのだということです。

当然ですが、このような検閲まがいのことをされて、何もなかったように講演をさせていただくわけにはいきません。講演は、辞退させていただくことにいたしました。

2020.01.17

SNSでの青少年の犯罪被害に関するコメント

このところ、SNSの犯罪被害について、取材依頼を多くいただいています。同じことを何度もお話ししてもあまり意味がないので、現時点での私の見解をここに記しておきます。

まず、基本的な状況として、2013年を境目に中高生などの若い世代にスマートフォンの利用が拡大し、これに伴い、SNSやオンラインゲーム等の利用が広がりました。LINEのサービスが本格的に普及したのもこの年です。

これ以降の状況として重要なのは、LINEが標準的なコミュニケーションツールになったことと、Twitterの複数アカウント利用が常態化したことです。

LINEの普及は、チャット形式での2人あるいはグループでのコミュニケーションが日常化したことを意味します。中高生の場合、いくつものグループに入り、毎日それらのグループでチャットをすることが当たり前になりました。この結果、学校での人間関係が学校外でもずっと続く状況が顕著となりました。そして、コミュニケーションの頻度が上がったことで、ネットいじめにつながるリスクが増大しました。実際、2013年以降、LINEでのコミュニケーションに関わるネットいじめ案件は多く報道されています。

Twitterの複数アカウント利用は、「裏アカ」がネットいじめに使われるようになったことにもつながっていますが、趣味でのつながり等を作りやすくしました。中高生が趣味用Twitterアカウントで共通の趣味の人と日常的にコミュニケーションをとり、オフ会等で会うことは珍しくありません。この延長上に、「パパ活」用アカウントや「援助交際」用アカウントを作って「援助」してくれる人を探すということもあります。

これら以外に、オンラインゲーム等の利用もあります。

注意すべきは、SNSやオンラインゲームの普及と同時期に、少年犯罪が著しく減少していることです。ここ十数年で少年犯罪は数分の一に減っています。

そもそも家庭や学校でうまくいかない青少年は、どうしてもある程度の数いると考える必要があります。SNS等が普及する以前には、そうした者の中には非行少年のたまり場に集うものがそこそこいて、少年非行、少年犯罪につながっていた部分がかなりあったと思われます。しかし、SNS等の普及で、そうしたたまり場に行かなくても、青少年はなんとか日々をやり過ごすことが可能になります。たとえば、SNSで知り合った人には自分の素性がわからないので、かえって悩みを素直に打ち明けられるという話がよく聞かれます。ゲームで救われている者も多いでしょう。このように、ネットの普及は、子どもたちを犯罪に関わることから遠ざける機能をもっていると考える必要があります。

(参考)少年による刑法犯等検挙人員・人口比の推移(法務省『平成30年版 犯罪白書』)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/65/nfm/n65_2_3_1_1_1.html

しかし、当然ながらネットにはリスクもあり、家出をしたい若者(特に女性)が、性行為をすることが想定されるにもかかわらず、SNSで知り合った人のところに行くような案件が出てきています。Twitterの複数アカウント利用ではこうしたコミュニケーションが容易ですから、結果として、SNSに起因する犯罪の4割以上がTwitter経由になるわけです。

このように考えると、ネットが危険というのは不正確であり、青少年にはそもそもリスクがあり、特に家庭や学校でうまく行っていない者にとっては、家庭や学校が危険なのだという前提に立つ必要があります。

では、SNSで子どもが犯罪被害に遭う問題について、家庭や学校ではどのように対応すべきなのでしょうか。

当然ですが、インターネットがどのようなものであり、SNSには有用性も危険性もあるということを理解してもらうような教育は不可欠です。また、ネット初心者の子どもには、子どもに合ったフィルタリングサービスを利用することも必要です。利用時間を決め、家庭内では基本的にリビングルームで使用させるなどして、保護者がゆるやかに子どもの様子を見守れるようにすることも必要です。

しかしながら、そうしたことだけでは対応は不十分です。SNSでの犯罪被害については、何が犯罪なのかをきちんと子どもたちに教えておく必要があります。具体的には以下のことを理解してもらわなければなりません。

・保護者に無断で18歳未満の子どもを宿泊させることは、たとえ子ども本人が望んでいても、誘拐や条例違反(深夜外出違反)の罪に問われる可能性があること。

・18歳未満の子どもの下着姿や裸の写真、動画を撮ることは、基本的に児童ポルノ製造という犯罪にあたること。

SNSで知り合った人が、自分の悩みをよく受け止めてくれたとしても、保護者に無断で泊まらせようとしたり、下着姿や裸の写真・動画を求めたりしてきたら、その人は犯罪に該当しうる行為をしていることになります。そのような相手に大切な自分の身体を委ねるようなことをしてはならない、ということをこそ、理解してもらう必要があります。

中高生(あるいは小学生)が、家を出たいとか自分を傷つけたいという心理に陥ることは、残念ながらありうることです。そうしたときに頼るのがSNSで知り合った相手しかいないというのは、まずい状況です。保護者とうまくいかない場合に助けてくれる大人を作っておくことが、被害防止のためには重要なのだろうと思います。

以上が現時点でのコメントです。取材依頼をされる場合には、まず上記のコメントをお読みいただければ幸いです。

2019.12.21

市議会教育福祉委員会協議会で確認された流山市教委の法令違反かつ不適切ないじめ問題対応

私は10月21日、文部科学省内にて記者会見を行い、流山市教委がいじめ問題について法令違反かつ不適切な対応をしており、被害者が今でも苦痛の中にあるということを公表しました(記者会見の内容等はこちら)。

これまで市教委は私のこうした指摘に対して非を認めず、責任逃れのような発言を繰り返してきました。しかし、12月16日、市議会教育福祉委員会協議会(つまり正式な会議でなはない会ということでしょう)で高橋あきら議員による質疑がなされ、その質疑応答の内容がこちらで公開されています。「質疑通告は、提出期限通り「11日正午」までに提出していたのですが、回答準備がされず、残念です」とあり、回答内容は不十分なものと思われますが、それでも私が記者会見で指摘した内容について、教委がほぼ事実と認めた内容となっています。

以下、具体的に、私が指摘した内容についてどのようなことが認められたのかを見ていきます。

私が法令違反として指摘したのは、以下3点でした。

  1. いじめ防止対策推進法第28条第1項が定める重大事態の要件を満たす事案が発生していたにもかかわらず、同事案を重大事態と認めず、重大事態としての調査を実施しなかった。(複数年経過後、調査会の指摘等を受け、市教委はあらためて重大事態と認めた。)
  2. 市条例第17条第3項において、重大事態が発生し、市教委が調査を行う場合には、調査を調査会に依頼することとなっている。しかしながら、重大事態と認め、市教委が調査を行うこととした案件について複数ヶ月の間、調査会に調査を委託せず、市教委職員が関係者に対する調査を一部行った。
  3. 市条例第16条第6項で、調査会の会長及び副会長を委員の互選で決めることになっているにもかかわらず、平成276月から平成295月までの最初の委員任期期間中には会長及び副会長を決定しなかった。なお、会長及び副会長の決定がなされたのは平成298月であり、それも委員からの指摘があって選出することになったものである。

1については、これまでの市教委の説明では被害者側代理人と相談して重大事態認定しなかったということであり、法令違反であったことは認められていました。今回の質疑応答では、「当時の記録によるやり取りのメモしか残っていない。また保護者から「変更」「要望」とはなかったと記憶している」とあり、これまでの市教委の説明の根拠は当時のメモのみに基づいていたことが明らかになりました。法令違反を認めながら、なぜそうした法令違反が生じたのかについて丁寧な事実確認を行うことすらできていなかったことを、市教委は認めたことになります。

2については、これまでの市教委の説明では平成29年3月あるいは4月に調査会に調査を依頼したつもりだったとされていましたが、今回ようやく同年8月2日に口頭で依頼したという回答がなされています。これまでの回答が事実関係を隠蔽し、自分たちの責任をごまかそうというものであったことが確認されたことになります。このように簡単にわかる事実さえ素直に認めない体質が、流山市教委にはあります。

3については、私の知る限り、これまで市教委は認めていませんでした。今回初めて、正副会長の選出が行われたのが平成29年8月2日であることを認めたことになります。すなわち、平成27年6月の流山市いじめ対策調査会設置以降、2年以上にわたって正副会長の選出を怠っていたことが明らかになりました。このことは、2とも関係します。すなわち、市教委は重大事態認定後に調査会に調査を委託したつもりだったと言っていますが、正副会長の選出すら行っていない組織に委託したつもりでいたことになります。重大事態とまともに向き合おうとしていなかった状況が、確認できたと言えます。

そして、私が不適切な対応と指摘したのは、以下2点でした。

  1. 市教委の特定の担当者といじめ問題の関係者との間に敵対的な関係が生じたことから当該担当者をその関係者と直接接しないようにすると調査会会議において担当の役職者が明言したにもかかわらず、この約束を反故にし、その後も繰り返し当該担当者が関係者と接するようにし、関係者の状態を悪化させ、重大事態調査の進行を妨げた。
  2. 令和元年5月当時、調査会委員は市教委の対応に疑問を抱き、5月末の任期満了後に委員継続の意思がないことをそれぞれ告げていたにもかかわらず、留任を説得する等の対応をとらなかった。当時、重大事態の調査が途中であったにもかかわらず、現在に至るまで旧調査会メンバーから現調査会メンバーの引き継ぎは行われておらず、実質的な調査は停止しているものと思われる。

1については、市教委として妨害した認識はないとずっと言われていますが、今回の質疑応答でも「たまたま他の職員がいないところへ保護者から電話があり、出てしまった」とあります。少なくとも、該当職員が関係者(市教委は「保護者」と言っています)と直接関わったことは認められたこととなります。接触させないという約束をしたのであれば、たまたま電話に出た場合には「申し訳ありません。私は対応させていただかないことになっていますので、他の者が対応いたします。今は他の者が不在ですので、こちらから連絡させます。」などと話してすぐに電話を切るように準備しておくべきです。そうしたことを怠っていたことこそが、調査の妨害となったのです。今後はぜひ、該当職員による接触がいかに関係者との関係を悪化させたのかについて、事実確認を行ってほしいと思います。

2については、メールのやりとりの開示が求められていますが、「メールのやり取り、全文開示は、執行部とも個人情報保護の観点で相談して回答する」となっています。質問通告後に私に許可をとって公表すればよかったはずですが、なぜ個人情報保護を持ち出すのでしょうか。以下、該当するメール(わずか2件ですが)を全文開示します(こちらでもほとんど開示していましたが、私に一部を隠す意図はないので、ここでは市教委の担当者名のみを伏せ、全文開示します)。

 

○指導課担当指導主事からのメール(平成31年4月24日)

藤川 大祐 

 日頃より大変お世話になっております。

 流山市いじめ調査会の皆の任期が令和元年5月31日をもって終了することを
受け、現在、次期いじめ調査会について検討しているところではございますが、
まずは藤川先生におかれては、ご自身のお気持ちと現在の状況を踏まえ、いじめ調査会
を継続していただけるか否かについて、どのように考えておられるかをお聞きしたく
メール致しました。

 どうぞ、よろしくお願い致します。

○藤川からの返信(平成31年4月24日)

○○様

藤川です。ご連絡ありがとうございます。

私としては、現状のままでは継続は難しいと考えています。率直に申し上げますが、市教委の皆に当初からいじめ防止対策推進法に則ったいじめ問題への対応の姿勢が全くといってよいほど見られず、現在調査中の事案に対しても調査会と協力して問題解決を進めようというお気持ちを皆がお持ちのように感じられません。茨城県取手市で市教委のいじめ問題への対応が違法だったとして大変な問題となっていますが、流山市の状況も同と私は考えております。

また、私個人の状況として、1年前より附属中学校長併任となり、さらに昨年10月より副学部長兼任となってしまっていて多忙を極めており、地理的にも遠い流山市に頻繁にうかがって対応することが難しい状況にあります。

こうした状況であるため、特に市教委の皆が私に継続を望まれないのであれば、任期満了をもって退任したいと考えています。もちろん、その場合、後任の会長となる方への引き継ぎはしっかりとさせていただきます。

よろしくお願いいたします。

 

上記藤川のメールに対して、市教委側からは返信がありませんでした。少なくとも私に関しては慰留がなされていなかったことがご理解いただけると思われます。

さらに、10月21日の記者会見前のやりとりについても、議員が開示を求めておられますので、以下、開示いたします。

 

○藤川からのメール(令和元年9月26日)

流山市教育委員会 指導課長 西村

千葉大学の藤川です。私どもが流山市いじめ問題調査会を退いてから約4ヶ月になりますが、いまだ新たな委員の方々への引き継ぎについてご相談をいただけず、心配しております。また、第二次中間報告書に記したさまざまなことがらについても、市教委としてどのように受け止められているのかを知ることができず、残念に思っております。

私としては、市教委がなされたこれまでの法令違反あるいは不適切な対応のあり方がこのままうやむやになってしまうべきではないと考えております。このため、記者会見を行い、添付のような内容を近日中に公表することにいたしました。

私としては、過度にセンセーショナルに扱われ、市の行政に混乱を生じさせるようなことは本意ではありませんので、添付の内容を報道機関に率直に伝えることのみを考えており、市教委にもこうして事前にお知らせするものです。また、井崎市長には別途この旨をご連絡申し上げていることも、申し添えます。

添付の文書の内容は、すべて第二次中間報告書に含まれている内容であり、貴教委もご異存のないところと存じますが、もし何かありましたらお知らせください。

私どもがこれまで真摯に取り組んできたことに、これからでも貴教委が真摯にお応えいただけることを切に願っております。

(添付ファイルはこちら

 

○西村指導課長からの返信(令和元年9月27日)

藤川大祐 様

ご無沙汰しております。藤川様には、いじめ対策調査会にて大変お世話になりありがとうございました。

流山市教育委員会にてメールの内容を確認をさせていただきました
藤川様がご指摘されているいじめ問題対応を確認させていただいたところ、こちらの認識とは異なる点がございます。
十分にご理解していただいていることと思いますが、公表されるにあたり「流山市いじめ防止対策推進条例」第19条「秘密等の保持」にご留意いただきますようよろしくお願いいたします。
なお、すでに新たな流山市いじめ対策調査会を実施しており、最終報告書作成に向け取り組みを進めていることを申し添えます。

流山市教育委員会

 

○藤川からの返信(令和元年9月27日)

西村
藤川です。ご返信ありがとうございます。
1)ご認識が異なる点があるということですが、どういった点が異なるのでしょうか。具体的にお知らせください。
2)条例第19条についてはもちろん認識しております。そもそも今回の公表は個人情報には触れておりません。また、「職務上知り得た秘密」に該当するとは考えますが、市教委が法令違反の対応をしていることや不適切な対応をしていることは公益性の高い情報であり、こうした事実を知りながら何もしないことはむしろ職務に反する態度と思われますので、第19条が言う「正当な理由」があると考えております。この点についても、ご見解が異なるようでしたらお知らせください。
3)最終報告書に向けた取り組みを進めているということですが、私は前会長として新会長に対して引き継ぎを行う責務があると考えております。新会長がどなたなのか、いつ頃どのように引き継ぎを行うことをお考えなのかについて、ご教示ください。
以上、よろしくお願いいたします。

○藤川からの再度のメール(令和元年10月7日)

西村

千葉大学の藤川です。前回のメールから10日となりました。1)について回答をいただいておりませんが、回答をされる意志をおもちでしたらそろそろ回答いただけますと助かります。また、2)について回答がないということは見解の相違はないということと解しておりますが、私の理解が異なるようでしたらお知らせください。

よろしくお願いいたします。

 

○西村課長からの返信(令和元年10月9日)

藤川 大祐 様

 昨日まで出張で外出していたため失礼しました。


 1)の件に関しては、こちらの資料および担当者からの聞き取りから当方としては、認識が
異なるとお伝えいたしました。どこが、どのようにという点に関しては、このメールで
議論する意思はありません。

 2)に関して、「正当な理由」かどうかについては慎重にご判断いただければと思います。

 

○藤川からの返信(令和元年10月9日)

西村
藤川です。ご返信ありがとうございました。
念のために申し上げますが、私は貴殿からの「認識が異なる」という回答について内容を教えていただきたいとお願いしただけであり、議論をお願いしてはおりません。にもかかわらず回答をいただけないこと、遺憾に思います。認識が異なると回答されながら、どのように認識が異なるかについては説明を拒否されたと解してよろしいでしょうか。
「正当な理由」に関しましては、所管をされるご担当者でありながら、ご担当者としてのご認識はお知らせいただけないということだと受け止めました。
以上、取り急ぎ、ご返信申し上げます。

 

こうしたメールのやりとりには、流山市教委の姿勢がよく表れていると思いますが、いかがでしょうか。

 

以上のように、私が記者会見で指摘した事実については、ようやく市教委がほとんど認めたということが確認できたと言えます。今後は、なぜこのような法令違反かつ不適切な対応がなされたのかを検証し、責任の所在を明らかにし、組織体質の抜本的改善が図られ、さらには市教委のこうした対応で苦しめた被害者側への支援をしっかりと進めるべきです。

2019.12.12

流山市議会第4回定例会のいじめ問題に関する審議に関するコメント

12月3日から12月6日から行われた流山市議会令和元年第4回定例会一般質問に係る審議の動画が公開されましたので、いじめ問題に関する審議について確認させていただきました。このようにいじめ問題についてしっかりと取り上げてくださった市議をはじめ市議会関係の皆様に、感謝申し上げたいと思います。それにしても、後田教育長の答弁には首をかしげざるをえない点が多くありました。ここに、コメントを記したいと思います。

なお、議員の皆様の質問については、こちらに質問通告事項が掲載されています。

また、いじめ問題に関する審議の動画は、私が確認した限り、以下にあります。

12月3日の審議の動画はこちら

 石原修治議員のいじめ問題に関する質問に係る審議は5時間14分頃から

12月5日の審議の動画はこちら

 小田桐仙議員のいじめ問題に関する質問に係る審議は32分頃から

 植田和子議員のいじめ問題に関する質問に係る審議は4時間06分頃から

 

以下、コメントさせていだきます。

 

(1) 平成28年度事案の重大事態調査の依頼の遅れについて

石原議員の質問に対して、後田教育長は会議の中で話したことをもって調査を依頼したものと認識していたと、これまでの見解を繰り返しています。石原議員から議事録等はあるのかという質問が出されていますが、調査を依頼したことを示す議事録等の存在について後田教育長は回答を避け、当該会議の議事録があると回答しました。あからさまな論点ずらしがなされたわけです。どのように話したことが依頼に該当すると認識しているのか、議事録を示して説明すべきです。

なお、本件についての私の見解については、当ブログの過去の記事(こちら)を参照してください。会長すら決まっていなかった調査会にどのように依頼したと考えておられるのか、また調査会に依頼したと認識されている期間中に市教委指導主事が実質的な調査を行っていた法令違反の対応についてどのようにお考えなのか、大変興味深いです。

 

(2) 藤川のいじめ対策調査会退任の経緯について

藤川がいじめ対策調査会会長及び委員を退任した経緯について、小田桐議員と植田議員の質問に対する後田教育長の回答には重大な疑義があります。以下、指摘します。

後田教育長は、教育委員会として慰留をしたが了解が得られなかったとおっしゃっています。また、私が調査会は退任しても調査委員会としての任務は最終報告書提出まで行わせていただくことを考えていると申し上げたことについては認識がないとおっしゃっています。しかし、実際の経緯は以下の通りです。

・本年4月24日、指導課の担当指導主事より藤川に以下の内容のメールがありました。

「流山市いじめ調査会の皆の任期が令和元年5月31日をもって終了することを受け、現在、次期いじめ調査会について検討しているところではございますが、まずは藤川先生におかれては、ご自身のお気持ちと現在の状況を踏まえ、いじめ調査会を継続していただけるか否かについて、どのように考えておられるかをお聞きしたくメール致しました。」

・同日、藤川から以下の返信をいたしました。

「私としては、現状のままでは継続は難しいと考えています。率直に申し上げますが、市教委の皆に当初からいじめ防止対策推進法に則ったいじめ問題への対応の姿勢が全くといってよいほど見られず、現在調査中の事案に対しても調査会と協力して問題解決を進めようというお気持ちを皆がお持ちのように感じられません。茨城県取手市で市教委のいじめ問題への対応が違法だったとして大変な問題となっていますが、流山市の状況も同と私は考えております。
また、私個人の状況として、(中略)多忙を極めており、地理的にも遠い流山市に頻繁にうかがって対応することが難しい状況にあります。
こうした状況であるため、特に市教委の皆が私に継続を望まれないのであれば、任期満了をもって退任したいと考えています。もちろん、その場合、後任の会長となる方への引き継ぎはしっかりとさせていただきます。」

・このメールについての返信はありませんでした。

・5月27日にいじめ対策調査会の会議がありました。この席で、担当指導主事より次期も継続してほしいという話がありました。私は、4月の時点で継続は難しいとお話ししていたということ、この時期になっておっしゃるのはいかがなものかという話をしました。さらに、調査会を退任したとしても、調査委員会として最終報告書提出までつとめさせていただく気持ちはあるということ、そのために市の側で必要な規程の整備についても検討いただけないかといったことをお話ししました。なお、同席していた指導課長他の方々からは特段何もありませんでした。

・調査会は退任し調査委員会を継続するという可能性については、5月28日に、西村指導課長から私を含む当時の調査会委員全員に対して、以下のメールがありました。

「さて、昨日の会議にて今後のいじめ調査会のことについてお話をさせていただきました。その中で、現委員の皆が任期終了に伴って退かれることを確認させていただきました。ただ、第二次中間報告書を出すまでは継続していただけることと、そのために流山市で任期終了後も継続できるような内規を整備することを確認しました
内規を整備することに関してですが、市の総務課に確認したところ、今から内規を整備し現委員の皆に適用できるように間に合わせることは難しいとのことでした。そこで、ひとまず再任という形で委員の皆にご了解いただけないかとのご助言を受けました。通常の再任ですと2年の任期になってしまいますので、第二次中間報告書を出していただくと同時に職を退かれるという形をとってはということです。今後、教育委員会としても調査会の人選等、後任に引き継げるよう教育委員会でも準備を進めてまいります。」

経緯は以上です。慰留がなされたのは、任期が切れる4日前の5月27日の会議での担当指導主事の発言だけであり、指導課長をはじめとする役職者からは慰留と呼べる行為は全くありませんでした。十分に慰留がなされたとは言い難いことがおわかりいただけると思います。また、調査委員会だけを継続する意思があるということについては、指導課長名のメールを受け取っています。市教委にこのメールの記録がないはずはなく、私たちが決して調査を投げ出して退任したのでないことがおわかりいただけることと思います。教育長に、こうした認識がないという答弁が許されるはずはありません。

後田教育長の市議会での答弁は、悪質な嘘と申し上げてよいと思います。

 

(3) 現在のいじめ防止対策調査会の委員の人選について

調査会の委員の人選に関する植田議員の質問に対して、後田教育長は、委員の人選、運営について、ガイドライン第4の規定に基づき、中立性、公平性、ならびに第三者性の確保のため、職能団体や大学、学会からの推薦によることを図るよう努めていると回答しています。しかし、私の得た情報では、現在の調査会会長は元判事で元弁護士の方であり、調査会委員の中には元流山市教委指導課長が入っているとのことです。仮にこの情報が正しければ、職能団体や大学、学会からの推薦によるのか疑問ですし、委員の中立性については深刻な問題がありえます。現在の委員について、どのような団体に推薦を依頼したのか、市教委や市立小中学校の勤務経験はないのか等について、情報を公開すべきでしょう。このような状態で、被害者側に理解を求めるということには、かなりの無理があります。

 

以上、わかりやすい点についてコメントをさせていただきました。後田教育長の答弁にはこのように明らかな嘘や隠蔽が見られます。そして、相変わらず最終報告書を受けて対応するとおっしゃり、これまでの中間報告書には対応をしないとお考えのようです。教育長のこのような姿勢が、流山市教委のひどい対応を生んでいると考える必要があります。流山市議会や報道機関におかれては、引き続き事実の解明に力を尽くしていただきたく、お願い申し上げます。

2019.12.06

萩生田文科大臣の流山市教委に関するコメントの書き起こし

本日12月6日、閣議後に萩生田文部科学大臣が記者との質疑応答の中で、流山市教委のいじめ問題や教員の不適切指導に対する対応について質問に答えました。このときの書き起こしを入手したので、掲載させていただきます。

Q:千葉県流山市のいじめ問題について、
流山市ではいじめが3年間放置されていた問題や児童への行き過ぎた指導が意図的に学校から報告されていなかったことが議会でも問題になっています。これらについて処分者は一切出ていません。流山市教育委員会に県教委を通して状況確認や指導の予定はありますでしょうか?
また相次ぐこういった問題があるなかで処分者なしという状況についても受け止めを。

A:千葉県の流山市におけるいじめ問題については、10月に流山市の教育委員会の担当者を文科省に呼び事実関係の確認を行うとともに、重大事態の認定の遅れたことへの指摘のうえ、いじめ防止対策推進法にのっとり適切な対応をするよう指導したところです。
また教職員による不適切な指導については事実関係の把握に努めるとともに、引き続き千葉県教育委員会から適時報告を受けつつ、必要に応じて指導助言を行ってまいりました。
流山市におけるいじめ問題や教職員の不適切な指導については、文部科学省としては極めて遺憾だと思っております。懲戒処分等については、各自治体の権限に、責任と権限において行うべきものであり、これは国としてコメントは差し控えたいと思いますけれども、しかし、今後も適切な対応がとられるかどうかは、注視し必要に応じて指導や助言を行いたいと思います。

報道では教員の不適切な指導についてのみ報じられていますが、いじめ問題についてもこのように出されていました。文部科学省には引き続き、流山市教委に対して指導助言を行なっていただきたいと思います。

流山市議会におけるいじめ問題に関する審議の書き起こし

12月5日、流山市議会でいじめ問題についての審議が行われました。報道機関の方から書き起こしをいただきました。公開してかまわないということなので、以下に掲載させていただきます。

注目していただきたいところには、下線をつけます。下線部については、下でコメントさせていただいていますので、下までぜひお読みください。

①平成20年3月末にいじめ重大事態を位置付けて以降、いじめの対応をめぐり本市の取り組みの不適格さを指摘する
流山市いじめ対策調査会前会長による記者会見が10月21日に文部科学省記者クラブにて実施された
本市におけるいじめ重大事態の取り扱いについて以下を問う

ア)10月21日の大学教授による記者会見と比較し、中間報告書はどのような内容だったのか
また学校の出欠扱いなど、市教委の見解とは異なる報道も報道されているが、どう捉えていますか。
→元年5月31日に提出された中間報告の内容は記者会見と比較し、指摘された内容も含まれる、学校の出欠の取り扱いなど教委と把握している内容も報道されています。
このことについては誠に残念です。

イ)本案について、平成29年3月末のいじめ重大事態の位置づけが正しかったのか。また、平成29年第一定例会の私の一般質問に対し
「現在臨時招集をしてのいじめの対策調査会を立ち上げるほどの事案は発生しておりません」と答弁したが、本案の経過から正確性を欠いた答弁だったのではないか?
→平成29年2月当時、本案件については学校と教委は連携を取り保護者らと面談をしていた、その時は引き続き丁寧に寄り添う事が重要だと判断、調査会を立ち上げる必要はないと判断しました。その後3月になり学校からの情報で3月末に上げた情報で重大案件と認定しました。当時の答弁が正確性を欠いたとは思っておりません。

ウ)本案に対するいじめ対策調査会の中間報告書はどのような位置づけなのか、また本案の中間報告書は2度に渡って市教委に提出され
市長にも提出されていることを令和元年第二回定例会でわざわざ確認したにも関わらず、対策などがなぜ総合教育会議や教育委員会議などで議論が深められなかったのか?
中間報告書の取り扱いについては、現在、現調査会において最終報告書の作成に向けて中間報告書を参考にしている段階にあり、現調査会が判断するものと考える。(①)
市長などと情報を共有し教育委員会議では随時報告させ情報共有を心がけています。

市長に)
Q,重大事態の被害者は「いじめ」の被害者と認識していますか?被害者の意識、受け止め方など家族の問題か?
調査会で調査中だったので事実関係の確認をしていた、状況を踏まえて教育会議では「いじめ事案」として認識していた。
→いじめの重大事案として認識していました。


教育長に)
Q10月25日に文科大臣について指摘があったが対応について不適切なものだったと考えるか?
私たちも発言を受けて法に沿って対応すべきだったと考えています
私たちが30日を超えたことについて対応すべきだった、当時は学校での対応の結果、重大事案と考えてなかった。
欠席が30日を超えてなくても重大事案として対応すべきでした。(②)

教育部長に)
Q,6月14日の段階で新調査会は立ち上がっていたのか?
立ち上がっていませんでした。

市長に)
Q11月22日に千葉日報に市長のコメントが載った「最終報告書を観て判断したい、市教委には迅速にと」発言があったがこれは市長の発言か?
わたしの発言です。(③)

教育部長)
Q,被害者児童や保護者に調査の時期、期間、事項、方法などを示したと発言があったが、これは現調査会が行ったものか?
→説明は現在進めていると認識している。要望の有無についてはこの場での答弁は控える。

Q,新調査会について、しっかり調査が出来る体制となっているのか?
→被害者への説明については法令に基づき義務つけられている、員については説明はするが出来るだけご理解いただけるようにしたい。
平行線になったとしても努力義務と認識して努力はしていきたい。(④)

教育部長へ)
Q,最終報告書について、委員の交代や被害者との関係などから出にくい環境だと考えているが?
→出来る限り、義務としては理解は位置付けられいないが分かっていただけるように努力したい。
第三者が作っているので時期についてはコメントできないが、速やかに出して頂けるように申し上げています。

教育長へ)
Q、11月2日に前調査会の会長になぜ最終報告書を作る前にやめたのか?と問うたところ、「やむにやまれる思いで記者会見をした」と話したについて
→わたしからはコメントできません、心情まで把握できてませんので。前会長が最終報告までまとめると言っていたことについては初めて聞いた話、慰留はしたが了承を得られなかった。(⑤)

Q,議会へ資料請求をした際、調査委員の氏名や役職など第二次中間報告書では黒塗りになっている、公費を払っても黒塗り、これは教委に得するような黒塗りではないか?
私どもも書類の専門家ではないので法務部で慎重に考えた結果の黒塗りです。(⑥)

教育部長へ)
Q,法令に基づけば保護者に説明し納得してから初めて調査が始まると考えているが、そういうことではないのか?
→委員については委嘱は了解を得てからではなく、説明をして疑義があれば理解してもらう努力をしながら進めていけると考えています。
委嘱状を渡して新たな委員を選出しているわけですが、特に文書をもって引き継ぎをする法律はない、現状としては内容を書いた文書での委嘱は行っていません。

市長へ)
Q、調査会前会長に市長みずから意見を聞く事は考えていないのか?すべきではないのか?
私自身も理解しないと、お会いして適切なやりとりをするために事実を把握しなければいけないし、直接面会する権限というものが無いのです。
まず事実確認をして、お会いする事を考えます。(⑦)

Q、前いじめ対策調査会がまとめた報告書をしっかり引き継ぐことが大事だと考えているがどう考えているか?
→新調査会と協議をして判断していきたい。

Q,第二次中間報告書について、教育福祉委員会で議論して答弁できるように勉強していただきたい。事実として重大事態にも関わらず当初教委、学校がそうしないように扱ったかもしれないので次回答弁出来る様にしっかりおさらいしていただきたい。

以下、下線部についてコメントです。

① 中間報告書の扱いについて、新しい調査会の判断に委ねるとされています。私たちは市教委から依頼されて調査をし、その成果を中間報告書に記して教育長に提出したのですが、正式に提出されたものについて当面何もしないと宣言されています。不当です。

② 教育長は、重大事態認定しなかったことが誤りだと公式に認めていることになります。となると、なぜこのようなことが起こったのかを確認し、誰に責任があるかを明確にし、このことによって生じた被害についてどのように償うのかについて、明確に説明をされるべきではないでしょうか。

③ 市長も、最終報告書が出るまで対応しない立場をとるということを明言されたことになります。遺憾です。

④ 現在の調査会の人選について、被害者側から重大な疑義が出されていると認識しています。努力するというようなレベルの問題ではないはずです。いずれ何が問題かが明らかになるでしょう。

⑤ 私は本年5月27日開催の流山市いじめ対策調査会の席上で、調査中の案件の調査が終了するまでは調査委員会の長として責任をもってまとめたいとお話ししました。正式な会議で申し上げたことが教育長に伝わっていないということなのでしょうか。そして、慰留をしてくださったとのことですが、私は4月時点でこのまま調査会委員を続けることはできないと連絡してあったにもかかわらず、教委側から慰留に該当する発言があったのは5月27日の会議の場において、担当指導主事から一言あっただけです。5月27日というのは、任期が切れるわずか4日前です。しかも、その場におられた指導課長他、指導主事よりも上の立場の方々からは特に慰留の言葉はなく、まして教育長からは何のメッセージもいただいていません。流山市教委にとって「慰留」とは、このように軽いものなのだということですね。

⑥ 墨塗りについては、いろいろと疑義が出ています。教委だけでなく法務部にも問題ありということなのでしょうか。

⑦ 市長には記者会見前にSNSを通じて連絡をさせていただきましたが、何の返信もいただけませんでした。市長からは、その後も全く連絡をいただいておりません。私としても、ぜひお会いしてお話しさせていただき、最終報告書を待たずに必要な対応をとっていただくようお願いしたいと思っています。

2019.12.02

公開された第二次中間報告書と、井崎流山市長の先延ばし宣言

流山市教委がいじめ重大事態について法令違反かつ不適切な対応を行った問題について、少し動きがありました。

流山市議会が市教委に対して、重大事態(平成29年に重大事態認定された事案)の第二次中間報告書の開示を請求したようで、このほど第二次中間報告書が開示され、共産党市議団のサイトで公開されています。もちろん個人情報に関する部分は非公開なので墨塗りの箇所が多く、墨塗りのあり方についても疑問は残りますが、市教委の対応の問題に関する記述はかなり公開されていますので、ご関心をお持ちの方はお読みいただけるとよいと思います。

第二次中間報告書が公開されているページは、こちらです。ファイルは二つに分かれており、その1はこちら、その2はこちらです。

特にお読みいただきたいのは、p.66からp.73にかけての「11. 学校及び市教委の対応に対する評価」のところです。特に、9.71からp.73にかけての「11.3. 重大事態としての対応に関する問題」については、市教委の対応がどのような意味で法令違反であり不適切なのかであることが端的に記されていますので、ご確認いただければ幸いです。

この部分の中に、「条例に従って第三者によって構成される調査委が調査にあたっていたと考えるのは当然のことである」という記述があります(p.72)。この箇所で主語にあたる部分が墨塗りになっていますが、「考える」の主語は被害者側であることは文脈からご理解いただけると思います。市教委は、第三者で構成される流山市いじめ対策調査会(以下、「調査会」)が調査を行っているという印象を、被害者側に与えたということが書かれているわけです。そして、第二次中間報告書ではこの点について「市教委からはこれに対応する説明はなされておらず、市教委は条例の規定に合わない事態が続いていることを認識していながら、あたかも認識していないかのように振る舞っていたものと解される」と指摘しています(p.72)。そして、「本件において、法令に従って義務を遂行するはずの市教委が法令に従った対応ができなかったことは、結果的に本件の深刻化、長期化につながる大きな要因となったと言える」とも指摘しています(p.72)。

この第二次中間報告書は、市教委指導課が確認の上で教育長に提出されたものです。すなわち、上記の第二次中間報告書の記述は、指導課も確認の上で確定したものです。少なくとも、本件が平成29年3月に重大事態認定されて以降の対応においては、指導課長をはじめとする担当者らは条例に従った対応ができていないことを認識していながら、あたかも条例に従って調査会が調査に着手しているかのように被害者側に説明していたわけです。

朝日新聞11月22日付千葉県版に、「流山市立小中学校のいじめ問題 「保護者説明 丁寧に」 県教委、市教委に指摘」という記事が載っています(この記事はネットには掲載されていないようです)。この記事では、県教委が今年6月に流山市教委に対して「調査についてしっかり保護者に説明をして欲しい」と指摘し、「年単位で報告が遅れたことを重く受け止め、公平公正な調査を速やかにまとめてほしい」と「懸念を伝えた」とされています。このことについて、流山市教委の西村指導課長は「調査委の立ち上げ方がよくわからなかった。反省点だ」と話したとのことですが、「よくわからなかった」という認識の問題でないことは第二次中間報告書からもご理解いただけると思います。平成29年3月から8月までの期間中、市教委の担当者らにはすでに法令違反の状況だという認識がありながら、被害者側を誤認させる説明を行っていました。問題は、「よくわからなかった」という認識でなく、誤認させる説明を行ったという行為にあります。県教委も、早く報告書をまとめることばかり求めず、市教委の対応にどのような問題があったのかを把握し、適切に再発防止や処分がなされるよう指導すべきです。

さて、第二次中間報告書では、最終報告書を待たずに市教委が必要な対応を行うことを求めています。平成29年12月に第一次の中間報告書が提出された後のことについて「その後、約1年半が経過しているにもかかわらず、市教委やB中学校は本件に関して、何がどのようにまずかったのか、具体的な見解を公表しておらず、また、再発防止策を公表することもしていない。調査委員会としては、こうした市教委、B中学校のあり方に強い疑問を抱くものである」と記しています(p.76)。「再発防止策の策定や実施が先送りされている中で、新たな被害が生じている恐れがある」とも記しています(p.76)。

ところが、市教委のみならず井崎流山市長までも、最終報告書を待って対応するという姿勢をずっと示しています。千葉日報の11月22日付の「トラブル対応の仕組み検討必要 いじめ問題で流山市長」という記事(有料会員限定記事はこちら)では、「最終報告書をみて判断したい」「報告書に改善策が盛り込まれれば、再発防止に取り組むように指示している」という市長談話を伝えています。第二次中間報告書では対応はせず、最終報告書を待つという先送りの姿勢がはっきりと出てしまっています。

第二次中間報告書の提出から、すでに6ヶ月が経過しました。市教委からは現在の調査会に対して引き継ぎをしてほしいという連絡を受けていますが、現状では引き継ぎの日程すら決まっていません。市長にも市教委にも、第二次中間報告書をふまえて対応を行う姿勢は見られず、ただひたすら時間だけが経過していきます。まるで、嵐が過ぎるのをじっと待っているかのようです。第二次中間報告書をふまえた対応を待つ理由など、全くないはずなのですが。

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