国のいじめ防止体制が問われている
岩手で中学生が亡くなった事件への対応が問題になって以降、いじめ防止のあり方についていろいろと話題になっています。岩手の事件では、学校のいじめ基本方針に定められた対応がなされていなかったことが問題となっています。いじめはどこでも起きうるものですが、自殺などの重大事態に至るためには、いくつもの不幸な条件が重なるのが一般的であり、「どこかで誰かが何かをしていたら」重大事態は避けられたはず…ということになります。この意味で、学校がいじめ基本方針を定め、必要な策をとることは、重大事態に至る可能性を大きく減ずるものと言えます。一部の策が実施されなければ必ず重大事態が起こるということはありませんが、重大事態に至る可能性を高くしてしまいます。だから、不作為の罪は重いのです。
岩手の事件を受けて、文部科学省はいじめの調査をやり直すよう全国の学校に指示したとのことです。私はこうした文部科学省の動きには大いに疑問があります。夏休みが終わっていじめ防止も含めた指導が大変なこの時期に、学校に対していたずらに負担を増やしてどうするのでしょう。人事異動も卒業もあり、前年度の調査をやり直すにも限界があります。そして、過去の調査をやり直すことは、必ずしも現在の問題の解決にはつながらないので、対応する教員には徒労感が大きいでしょう。
いじめ防止対策推進法は、各学校が計画的、組織的にいじめ防止対策につとめることを求めている法律です。文部科学省が一律に何かをさせるのでなく、各学校が「こうすればいじめを防止できるであろう」と考え、自律的に対策を進めることを求めているはずです。文部科学省がすべきことは、各学校に対して一律に何かをさせることではなく、各地域・各学校のいじめ防止対策の体制を検討し、不十分な点があれば明らかにして改善を促すことでしょう。仮に多くの地域・学校でうまくいっていない部分があるのであれば、いじめ防止対策推進法の改正や国の基本方針の修正を検討すべきです。
そもそも、これまでのいじめ防止対策がうまくいかずに繰り返し同じような問題が生じていたのですから、文部科学省のいじめ防止対策がうまく機能していなかったわけで、いじめ防止対策推進法ができて以降、文部科学省だってやり方を変えなければなりません。このために、国にもいじめ防止のための組織を設置して、各地域・各学校のいじめ防止対策のあり方を検証し、必要があれば国の方針を修正するようにという提案をし、実際に文部科学省にいじめ防止対策協議会が設置されるに至ったはずです。しかし、残念ながらこの協議会は開催頻度が低く、今回のような事態があっても何の発信もしていません。
子どものためになるはずの学校で、多くの子どもがいじめに苦しみ、死に至る事態が続いています。自ら作ったはずの基本方針を遵守しない学校があり、文部科学省も的外れなことばかりしています。文部科学省はいじめ防止対策協議会がきちんと機能するようにし、各学校・各地域のいじめ防止対策の点検と国の基本方針の再検討を進めるべきです。国の担当者たちが本気で子どもたちのために働こうとしているのかが、問われています。
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