SNSでの青少年の犯罪被害に関するコメント
このところ、SNSの犯罪被害について、取材依頼を多くいただいています。同じことを何度もお話ししてもあまり意味がないので、現時点での私の見解をここに記しておきます。
まず、基本的な状況として、2013年を境目に中高生などの若い世代にスマートフォンの利用が拡大し、これに伴い、SNSやオンラインゲーム等の利用が広がりました。LINEのサービスが本格的に普及したのもこの年です。
これ以降の状況として重要なのは、LINEが標準的なコミュニケーションツールになったことと、Twitterの複数アカウント利用が常態化したことです。
LINEの普及は、チャット形式での2人あるいはグループでのコミュニケーションが日常化したことを意味します。中高生の場合、いくつものグループに入り、毎日それらのグループでチャットをすることが当たり前になりました。この結果、学校での人間関係が学校外でもずっと続く状況が顕著となりました。そして、コミュニケーションの頻度が上がったことで、ネットいじめにつながるリスクが増大しました。実際、2013年以降、LINEでのコミュニケーションに関わるネットいじめ案件は多く報道されています。
Twitterの複数アカウント利用は、「裏アカ」がネットいじめに使われるようになったことにもつながっていますが、趣味でのつながり等を作りやすくしました。中高生が趣味用Twitterアカウントで共通の趣味の人と日常的にコミュニケーションをとり、オフ会等で会うことは珍しくありません。この延長上に、「パパ活」用アカウントや「援助交際」用アカウントを作って「援助」してくれる人を探すということもあります。
これら以外に、オンラインゲーム等の利用もあります。
注意すべきは、SNSやオンラインゲームの普及と同時期に、少年犯罪が著しく減少していることです。ここ十数年で少年犯罪は数分の一に減っています。
そもそも家庭や学校でうまくいかない青少年は、どうしてもある程度の数いると考える必要があります。SNS等が普及する以前には、そうした者の中には非行少年のたまり場に集うものがそこそこいて、少年非行、少年犯罪につながっていた部分がかなりあったと思われます。しかし、SNS等の普及で、そうしたたまり場に行かなくても、青少年はなんとか日々をやり過ごすことが可能になります。たとえば、SNSで知り合った人には自分の素性がわからないので、かえって悩みを素直に打ち明けられるという話がよく聞かれます。ゲームで救われている者も多いでしょう。このように、ネットの普及は、子どもたちを犯罪に関わることから遠ざける機能をもっていると考える必要があります。
(参考)少年による刑法犯等検挙人員・人口比の推移(法務省『平成30年版 犯罪白書』)
http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/65/nfm/n65_2_3_1_1_1.html
しかし、当然ながらネットにはリスクもあり、家出をしたい若者(特に女性)が、性行為をすることが想定されるにもかかわらず、SNSで知り合った人のところに行くような案件が出てきています。Twitterの複数アカウント利用ではこうしたコミュニケーションが容易ですから、結果として、SNSに起因する犯罪の4割以上がTwitter経由になるわけです。
このように考えると、ネットが危険というのは不正確であり、青少年にはそもそもリスクがあり、特に家庭や学校でうまく行っていない者にとっては、家庭や学校が危険なのだという前提に立つ必要があります。
では、SNSで子どもが犯罪被害に遭う問題について、家庭や学校ではどのように対応すべきなのでしょうか。
当然ですが、インターネットがどのようなものであり、SNSには有用性も危険性もあるということを理解してもらうような教育は不可欠です。また、ネット初心者の子どもには、子どもに合ったフィルタリングサービスを利用することも必要です。利用時間を決め、家庭内では基本的にリビングルームで使用させるなどして、保護者がゆるやかに子どもの様子を見守れるようにすることも必要です。
しかしながら、そうしたことだけでは対応は不十分です。SNSでの犯罪被害については、何が犯罪なのかをきちんと子どもたちに教えておく必要があります。具体的には以下のことを理解してもらわなければなりません。
・保護者に無断で18歳未満の子どもを宿泊させることは、たとえ子ども本人が望んでいても、誘拐や条例違反(深夜外出違反)の罪に問われる可能性があること。
・18歳未満の子どもの下着姿や裸の写真、動画を撮ることは、基本的に児童ポルノ製造という犯罪にあたること。
SNSで知り合った人が、自分の悩みをよく受け止めてくれたとしても、保護者に無断で泊まらせようとしたり、下着姿や裸の写真・動画を求めたりしてきたら、その人は犯罪に該当しうる行為をしていることになります。そのような相手に大切な自分の身体を委ねるようなことをしてはならない、ということをこそ、理解してもらう必要があります。
中高生(あるいは小学生)が、家を出たいとか自分を傷つけたいという心理に陥ることは、残念ながらありうることです。そうしたときに頼るのがSNSで知り合った相手しかいないというのは、まずい状況です。保護者とうまくいかない場合に助けてくれる大人を作っておくことが、被害防止のためには重要なのだろうと思います。
以上が現時点でのコメントです。取材依頼をされる場合には、まず上記のコメントをお読みいただければ幸いです。
« 市議会教育福祉委員会協議会で確認された流山市教委の法令違反かつ不適切ないじめ問題対応 | Main | ある教育委員会による一方的なスライド削除の通告について »
「メディアと教育」カテゴリの記事
- 日本教育工学会2020年秋季全国大会(オンライン開催)発表資料(2020.09.14)
- SNSでの青少年の犯罪被害に関するコメント(2020.01.17)
- 藤川大祐×岩立沙穂・岡田彩花・村山彩希・飯野雅・大川莉央・込山榛香(AKB48)『実践!スマホ修行』発売について(2016.08.05)
- 青少年インターネット環境の整備等に関する検討会(第30回)資料(2016.03.01)
- 真のフィルタリング利用率は23%まで急落している(2015.08.27)
The comments to this entry are closed.
Comments