9月入学制具体案の修正について
9月入学制について具体案を発信したところ、未就学児への影響について多くのご心配のご意見をいただきました。これを受け、具体案を次のように修正したいと思います。
- 2020年度末を21年8月とする。21年度より、学校の年度を9月から翌年8月までとする。
- 20年度については、すでに休校措置で学習が進んでいない部分があること、今後も分散登校や再度の休校措置が必要となる可能性があり、学習進度を高めるのに限界があることを踏まえ、夏休みの過度な短縮などをせず、21年6月くらいまでかけて教育課程を進める。ただし、高校3年生や大学4年生などについて、教育課程の進行に無理がない場合には、3月に卒業することを認め、4月からの就職が最大限可能であるようにする。
- 小学校入学時期は当面、4月1日時点で6歳の者とする。21年生まれの者が6歳となる27年度より、小学校入学時期を1ヶ月ずつ遅らせ、31年度より9月1日時点で6歳の者とする。
- 入試、公務員試験など、児童生徒学生に関わる試験のスケジュールは、20年度実施のものについては可能な範囲で、21年度以降実施のものについては原則として全て実施時期を現状より4~6カ月程度遅らせる。
- 教職員の任期、定年などは基本的に5カ月遅らせる。定年については、今後の公務員の定年延長などがなされる中で、適宜調整する。
- 20年度は1年5カ月となるが、授業料などは1年分のままとする。学校が負担すべき5カ月分の人件費などについては政府が必要な補助を行う。
- 未就学児が増えることによる保育ニーズの増大に関して、幼稚園・保育園などへの助成拡大、家庭で乳幼児を養育する保護者への支援措置の対応を行う。
- この他、社会を挙げて9月入学制に合わせた制度の変更を行う。
補足です。
この案では、移行のための費用が膨大にかかります。当然、法律改正をや学校の教育課程の変更等、さまざまな手間もかかります。特に、未就学児が増えることへの対応は深刻であり、待機児童の増加については保護者への休業補償等の策を検討する必要があると考えます。こうしたコストについて社会的合意が得られなければ、上記具体案の採用はありえません。
また、移行措置が終わるまでの間、日本では義務教育開始時期が遅くなり、長期にわたって義務教育等の修了時期が遅くなります。こうした状況はいずれ解消されますが、一時的にせよこうした教育時期の遅れが許容されないということであれば、上記具体案は採用できません。
そして、当然ですが、季節感は変わります。この点は9月入学制である以上、避けることができません。ただ、季節感は上記具体案を採用するか否かについて決定的な要因とはならないと考えています。
前のエントリーにも書きました、小中高などの1年間の動きは次のようになります。なお、3学期制でなく前期・後期の2期制を前提としています。
8月 基本的に夏休み。新採用の教員には研修期間を設け、異動の教員には早めに内示を出す等して、新年度の準備に時間がとれるようにする。
9月 新年度開始。夏休み明けであるが、子どもたちは学年が変わって気分を新たにこの時期を迎えられるため、不登校や自殺等のリスクは低減される。
10月〜11月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事をこの時期と4〜5月とを中心に実施。ゴールデンウィークで時期が分断されることがない一方、適度に祝日があり、無理なく学校生活を送りやすい。部活動の秋季大会(従来の夏季大会に相当)も土日祝日等を活用して実施し、中高の3年生の部活動はこの時期を区切りとする。部活動の全国大会は11月から12月の土日や祝日を活用して実施することを原則とする。
12月 地域によるが、20日頃から冬休みに入る。
1月 地域によるが、成人の日くらいまでを冬休みとし、長めの冬休みに地域行事、社会教育活動等等を入れやすくする。
2月 2月末をもって前期修了。特に前期と後期との間の休みは設けない(数日確保してもよいかもしれない)。
3月 3月1日より後期開始。推薦入試等の入試がこの頃から始まる。
4月〜5月 運動会や文化祭、修学旅行等の学校行事を実施。また、ゴールデンウィークを中心に部活動の春季大会従来の秋季・冬季の大会に相当)を実施。
6月 入試を主にこの時期に実施。
7月 中旬で授業終了、その後は夏休み。
このようにすると、現状の4月入学制に見られた問題は、以下のようにほとんど解消されることとなります。
・入試の時期は6月となり、梅雨ではあるものの、台風は少ない時期で、インフルエンザや雪害等の影響はない。
・夏休みが年度の区切りとなるため、夏休み前にいじめ等の問題を抱えていた子どもが不安を抱えたまま過ごす必要がなく、新たな気持ちで9月を迎えやすい。(冬休みを長くするプランにしているが、それでも3週間程度であり、現在の夏休みの半分である。)
・部活動のメインの大会を秋季と春季の気候がよい時期に設定できる。野球の甲子園大会もメインは11月から12月の週末にすれば、酷暑の中、高校生が連日試合をするような無理をすることが避けやすくなるだろう。
・教職員が余裕をもって新年度の準備をできるようになる。
暑い時期に入試をすることへの懸念がありえますが、イメージとしては現在の入試から4ヶ月遅れにスライドすると考えてください。すなわち、5月中旬に大学共通テスト、6月に今2月に行われているさまざまな試験というイメージです。5月は天候がよいですし、6月は梅雨ですがこれまで大雨はあまり多くありません。また、いずれにしても入試には予備日程が必要ですが、入試と新年度の間に夏休みをはさんでいるため、別日程で調整する余裕がこれまでより1ヶ月分多くあります。また、仮に今後さらに温暖化が進んだ場合には、入試時期を5月中心にすることで対応が可能です。いずれにしても、感染症や雪害のリスクの高い現行の冬の時期の入試よりは状況は大きく改善されると考えられます。
私は多くのコストをかけてでも、これを機に9月入学制に移行し、学校教育でこれまで当然とされていたことを見直す契機ともするのがよいと考えます。コストについては、これまであまりにも教育にコストをかけてこなかったのですから、許容されてよいと考えています。しかし、社会的に合意ができるかと言われれば別です。合意が得られないのであれば、無理に教育課程を詰め込んでなんとかこの危機を乗り越えなければなりませんし、今後当面、入学時期の移行のような大胆な改革は難しくなることを引き受けなければならないでしょう。
あまり時間をかけるわけにはいきませんが、しっかりと議論ができればと思っています。
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Comments
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コストをかけても保育サービスのキャパシティを劇的に増やすことは困難だと思われます。仮にゼロ年生を併用しても小学校の教室数、教員の確保も困難でしょうし、学童保育も施設・要員ともキャパシティを増やせないでしょう。その問題をクリアできるのであれば9月入学に大賛成なんですが…。
ただ、今年度末大学入試日程を半年程度繰り延べることと高校3年生諸君の授業を3月末まで続行することで、カリュキュラム履修を完了させて欲しいと考えます。
将来的には小中高大とも9月始業化しつつ小学校入学の学齢を6才か7才かを選択できるようにすれば諸外国よりも就学月齢が遅れる懸念も払拭できると思うものです。
Posted by: Mr.Peki-chan | 2020.05.27 12:30 AM
義務教育の終了が遅くなる点について不安があります。
中学校というのは、一般的に規則やルールが厳しく統一されていることが多く、半年今年度が延長されることにより、特に4~8月生まれの子達は16才の誕生日を迎えてもなおそういった環境に留まるのは精神年齢的にも辛いものがあるのではと危惧しています。
小学6年生も、13才の子どもたちには年齢にあった環境が必要だと思います。
義務教育の終了年齢の遅れ、それにともない高等教育も遅れること。それがとてももったいないと思うのです。
それが嫌なので、休校中は一生懸命我が子は勉強していました。
例えば大学のときに自分の意思で留学して1年遅れるのとは訳が違います。
前倒しの9月入学ならば賛成ですが、今苦しんでいる子達は皆、後ろ倒しの強制留年(どんなに頑張っても)。
そのあたりの配慮はどおでしょうか。
中学校の先生方は、一定期間、今までの年齢の子どもたちよりも大人の生徒を既存の中学の中で半年育てていく、それはどうお考えですか。
Posted by: 4月生まれ中3の親 | 2020.05.27 02:31 AM
コメントをいただき、ありがとうございます。
保育サービスのキャパシティを短期間で劇的に増やすことは困難なので、保護者の休業補償等とあわせて対応する必要があると思われます。
義務教育修了時期が遅くなることは、休校措置を受けた対応としては避けがたいものです。
すでに休校で遅れが出ているので、何のコストもデメリットもない策はありえません。そうした中で何が最善かを検討していけたらと思います。
Posted by: 藤川大祐 | 2020.05.27 07:40 AM
小中高の子どものいる母親です。
2月末から1度も授業を受けていません。
今のままでは3ヶ月の遅れを取り戻せないのはあきらかで、学生の学びが疎かになっていますが、現状を変えるのはなかなか難しい様子ですね。
高校3年生から一足早く学校を再開したお隣韓国では、この1週間で既に数百人のお子さんが感染疑いで検査を受けているとのこと。
日本ではどうなるのか心配しています。真夏の登校、真冬の入試もとても心配です。
医学生や看護学生など実習が必要な学校も多いですが、まともに実習が出来ていないまま卒業になってしまうのも問題だと思います。
9月入学に関しては、文科省の案は随分叩かれていますが、小学校は4月入学で変えずに6年生を1年半にして、中学高校大学を9月入学にするのは難しいのでしょうか?
また、高校や大学では就職等で早く卒業したい人もいると思いますので、単位さえ取れば3月に一足先に卒業出来るように出来る、などの案は出て来ないのですが、難しいのでしょうか?
Posted by: ななこ | 2020.05.27 05:18 PM
小学校を6年5ヶ月にする案があることは承知しています。卒業を延ばすというよりは5ヶ月のゼロ年生期間を設けるという話が出ていますね。幼児教育に影響を与えないというメリットがある反面、小学校で5ヶ月だけ7年分の子どもを受け入れることとなり、教員や教室の不足が心配です。また、恒久的に小学校卒業が5ヶ月遅くなることになります。
9月入学にした上で高校や大学は3月卒業を可にするというのは、ありうることとは思います。今の高校生はともかく、9月入学で入った高校生が早く卒業したいかどうかはよくわからないのですが。
Posted by: 藤川大祐 | 2020.05.27 09:13 PM
突然のコメント失礼いたします。ご提案、なるほどと勉強になります。
ただ、今年の保育園の入園を9月まで一律で延ばすは難しいと思います。お金の問題だけでなく、実際、自営業の方等自分がすぐに復帰しないと困るかた、長く休んでしまうと席がなくなることの心配ですぐ復帰したいかた(保障を全会社がきちんと対応できると思えないので)、様々だと思います。休業保障ですべてがうまくいくと思えません。
そこで提案なのですが、学年齢の区切りは幼児教育3年間の変更をなくすために、現在の2才の子から変更でいかがでしょうか。未就学児でも幼稚園児と保育園児、乳児、幼児でも考えがかわります。今回幼児教育の不充分、学年の分断が問題なのは主に幼児です。
我が子は0才4月から保育園に通っていますが、ママ友関係は再構築が必要ですが正直乳児期は友達との意思疏通はほとんどありませんし、クラスという概念もありません。現在の2歳以下のクラスから1ヶ月分増やすことで、定員の問題があるので正確ではないですが、2、1、0歳で0.3ヶ月分の乳児が補えます。来年の幼稚園から1.1倍に対応できます。保育士は多少増やす必要があるかもですが、教室の不足とまではいかない対応可能な増だと思います。あと0.2ヶ月分であれば、育児休業の保障を手厚くすれば、全体数が減り、対応可能と思うのですがいかがでしょうか。
Posted by: 4月生まれ年長児母親 | 2020.05.28 06:21 AM
コメントありがとうございます。以降を今の2歳児からにするということはありうると思います。他方、今妊娠中の方も含め影響があるのは困るというご意見もあるので、私の修正案では2021年生まれの世代からの移行としています。いずれにしても待機児童対策が難しいことはご指摘の通りであり、政府・自治体がこれまで以上に待機児童対策に注力した上で休業補償等を充実させることが必要ですね。特に困る状況の方が優先して保育園等を利用できるようにする策も検討されるべきかと思います。
Posted by: 藤川大祐 | 2020.05.28 07:43 AM
さっそくのご回答ありがとうございます。
なるほど、色々な意見あり、全員が納得するものとは難しいものですね。
個人的には幼稚園から大学まで4月入学と9月入学を選択制にするとあがりたい人は4月に上の学年にあがるので待機児童が減って良いと思うのですが、それこそ年間スケジュールが狂い、急な変革は難しいのかなとも思います。すでに遅れた授業分をみんなに不満なく解消するは難しいものですね。
突然のコメント失礼しました。そしてご回答ありがとうございました。これからもご活躍期待しています。
Posted by: 4月生まれ年長児母親 | 2020.05.28 08:48 AM
始めまして。大阪府大工学研究科を定年退職したものです。
先生の修正案、妙案かと思います。
9月入学の必要性およびグローバル化等のメリットは職業柄十分承知しているつもりです。
検討先送りは大変残念で、先生のような方が動いて下さればまだ復活の可能性があるのではと期待しております。
素人ながら、私も上記サイトに私案を掲載しておりますので、ご覧いただけたらと思います。
先生の案との大きな違いは、学年区切り4-3月のまま不変という点です。
当初あったこのような案は、日本教育学会が「義務教育開始年齢引き下げの国際的動向に逆行する」として、検討のテーブルに挙げませんでしたが、私は本当に国際的動向に逆行するのか疑問に思い、調べてみました。その結果も同ブログの別ページに詳述しています。
もう一点、幼保の入園5カ月遅れに伴う待機児童の増加については、当面保護者が見れるように育休の延長期間(半年×2回)をさらに5カ月延ばせばいいのでは、と考えています。その間の給与補償(50%)は雇用保険料の増額で賄おうというのです。雇用保険適用外の継続性のないパートなどには公的援助が必要かもしれませんが、経費は知れていると思います。むろん幼保施設の拡充は並行して進める必要があります。
後、捕捉ですが、
2007年に体育の日を11月1日に、勤労感謝の日を11月5日に移し、11月3日の文化の日と合わせて間に挟まれる11月2日と4日を「国民の休日」とし、11月に最低でも5連休とする提案が検討されたのをご存知でしょうか。9月入学になれば、さらに不要になった春休みの一部をくっつけて9日(丸々一週間)以上の休みを毎年コンスタントに確保できますので、夏の甲子園に代わる大会なども十分可能になります。9月の現SWでは新学期開始直後になりますが、この時期なら気候的にも最適ではないかと思います。
以上ご検討いただければと思います。
Posted by: 高津正秀 | 2020.06.03 11:31 AM
具体的なプラン、ありがとうございます。大変勉強になります。
Posted by: 藤川大祐 | 2020.06.03 12:40 PM