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June 2021

2021.06.16

藤川大祐『「いじめに対応できる学校」づくり 法令だけではわからない子どもを守る実務ノウハウ』(ぎょうせい)、6月20日発売

来る6月20日、私の新しい著書『「いじめに対応できる学校」づくり 法令だけではわからない子どもを守る実務ノウハウ』(ぎょうせい)が発売となります。3月に出した『教師が知らない「子どものスマホ・SNS」新常識』(教育開発研究所)に続き、今年2冊目の単著の発売です。2冊とも、出版社からお話をいただき、1〜2ヶ月の執筆期間を確保して書き上げました。スマホの問題もいじめの問題も、書きたいこと、書かなければならないことが多くあったので、私なりに力を入れて書かせていただきました。

今回の『「いじめに対応できる学校」づくり』は、学校のいじめ対応の実務のノウハウを徹底的に扱った本です。このブログでもずっと書いてきたように、私は千葉県流山市や茨城県取手市等で、教育委員会の附属機関の委員長等を務め、重大事態への対応等を経験してきました。そうした中で、学校はもとより教育委員会もが、法令やガイドラインを無視していじめ問題を扱っている状況を目の当たりにし、私なりになんとか状況を改善したいと尽力してきました。取手市教育委員会では成果が見られる一方で、流山市教育委員会の対応は本当にひどく、文部科学省で記者会見を行って問題提起をすることが必要となるほどでした。

報道を見れば、川口市教育委員会をはじめ、法令やガイドラインに従わない例が数多く見られます。これが法治国家なのかと、目を疑うことばかりです。こうした状況が被害者やご家族に、深刻な二次被害を与えています。なんとかしなければなりません。

他方、法令やガイドラインは込み入っており、実際の学校現場でのいじめ対応にあてはめたときにどうなるのかは、必ずしも明確ではありません。私自身、附属中学校長としていじめ等の問題への対応にずっと当たっていますが、法令やガイドラインについてよく確認することに加え、そうしたところに明記されていない組織のあり方、スピード感等について、必要なところをしっかりと補っていくことが必要だと痛感しています。

私は、教育研究者、学校長、第三者委員会委員長を同時期に並行して務めるという稀有な経験をさせていただいています。この立場だからこそ、学校がいじめに対応するための実務ノウハウをしっかり書かなければと考えました。

本書は、第一義的には、学校でいじめ対応にあたる校長などの管理職の方々や生徒指導主事等に向けて書いています。せめて、この本にある内容は、学校におけるいじめ対応の最低限の前提としてほしいと願っています。そして、教育委員会の方々、学校の多くの教職員、保護者、議員、弁護士、報道関係の方々、さらには当事者の児童生徒の方々等、多くの方にお読みいただき、この社会のいじめ問題への対応の水準を高めることにつなげられるようになれば幸いです。

日本中の学校を、「いじめに対応できる学校」にしていきましょう。

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2021.06.04

教育再生実行会議第十二次提言は教育に壊滅的な悪影響を与えかねない

首相の私的諮問機関である教育再生実行会議が6月3日、第十二次提言「ポストコロナ期における新たな学びの在り方について」を公表した。日本経済新聞の記事には、私のコメントも掲載されている。

 

日本経済新聞の記事では、まあまあやんわりと私の見解が述べられている。だが、私はこの提言は日本の教育に壊滅的な悪影響を与えかねない深刻な問題を含むものだと考えている。以下、私の考えを述べておきたい。

 

1)「データ駆動型」という語が、明確な定義なく用いられている。「データ駆動型」とは data driven の訳であり、データをもとに次のことを決めていく方法という意味合いであろう。だが、この提言の言う「データ駆動型」の教育への転換は、教育を壊滅的に破壊しかねない危険なものである。以下がその理由だ。

・「データ駆動型」という言葉には、データ以外のことに惑わされずにデータから導かれる決定を行うべきだというニュアンスがある。このことは、教員をはじめとする人間の知見を排除するというニュアンスを含む。学校現場を支えてきた教員の知見よりデータを優先するということであれば、教員は全く尊重されていないことになってしまう。教員に対するリスペクトを欠くと言われても仕方がない。

・提言では、扱われるデータが、デジタルで自動的に収集できるものとして想定されているように見える。しかし、教育に利用されるデータが、デジタルで自動的に収集できるものばかりでよいはずがない。少なくとも、教員や児童生徒や保護者からのインタビューや教室の授業実践の観察等の質的な研究によって得られるデータが捨象されてよいはずはない。よく引き合いに出される医療におけるデータ利用においても、医療チームのメンバーが相互に見解を出し合うカンファレンスが不要となるわけでない。提言は、質的データを無視して教育が改善できるかのように書かれている。提言が現場の人々の声、実践における具体的な事実といったものを捨て去ることになれば、現場での話し合いや実践的研究は否定されてしまう。日本の教育の特色である授業研究も廃れてしまうかもしれない。

定義もなく「データ駆動型」などという言葉が使われること自体が不適切である。せいぜい「データ活用」くらいにしておくべきであった。

 

2)初等中等教育の教員がひどい労働環境にあることで学校教育が危機に瀕しているにもかかわらず、この点について踏み込んだ策が盛り込まれておらず、危機的な状況を止められない。具体的には以下の通り。

・少人数学級の推進については、既定の方向をなぞるだけで、小学校35人学級の効果検証を待つ姿勢しかない。「データ駆動型」発想の弊害かもしれないが、効果検証など待たなくても、学級規模が縮小されれば教員の負担が減ることは明らかであるし、35人に減らしたところで人数が少なすぎることによる問題が生じるとも考えにくい。欧米に近づけるために上限をせめて30人程度にすべきなのは当然であるので、首相に対して欧米並みの少人数学級化を提言すべきであったはずだ。

・教員免許更新制についても、抽象的に「改革」が言われているだけで、廃止は打ち出されていない。そもそも、勤務外の時間に私費で更新講習を受けさせることは不合理であるし、教員が不足しているのに免許失効で教員になれない人や失職する人が出ている状況もある。廃止を提言すべきだったはずだ。

・諸悪の根源とも言える給特法については、何の言及もない。教育の仕事はやろうと思えばいくらでもやるべきことがあるので、残業し放題の給特法があれば真面目な教員ほど労働時間が長くなるのは当然である。時間外労働時間に対応した手当を支給するようにしなければ、与えられた時間内で業務を遂行するという方向にはシフトできない。

このままでは、教員のイメージがどんどん悪化して教員のなり手が決定的に不足する事態に陥るとともに、教員を辞める人も多く出てしまうことになるだろう。「#教師のバトン」の悲惨な状況を、教育再生実行会議委員はどう見ているのだろうか。

 

3)上記以外は、初等中等教育における「9月入学」の議論が中途半端になっていることをはじめ、既定の路線の確認が中心であり、「新たな学びの在り方」と言えるほどの革新的な内容は見られない。

 

以上のように、提言では、「データ駆動型」という危険な発想ばかりが前面に出る一方で、教員の労働環境に対しては無策である。この提言のまま教育政策が進めば、教員へのリスペクトがないまま危険な「データ駆動型」の取り組みばかりが取り入れられて教員の負担感と無力感ばかりが増し、日本の教育に壊滅的な悪影響が与えられてしまう。事態は深刻である。

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